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14・天にとどく場所(1 さらに行く者)

 地震があったのは、冬のはじめの未明だった。

 このあたりでは地震は珍しい。都の住人のほとんどが目を覚ましてしまったが、幸いなことに被害はなかった。


 明るくなってから外へ出た東の地区の人々は驚いた。砦が崩れていたのだ。あの灰色の石の建物が、瓦礫の山になっていた。最初は未明の地震で崩れたと思われていたのだが、やがて話は逆転した。砦が崩れた衝撃が地震のように地を揺るがせたのだ。


 東の地区を預かる風の司は砦を見に行き、片方の眉を上げて黙って戻ってきた。汰門が則の司のところへ使いに出されたが、これも拍子抜けしたような顔で帰って来た。


「だってさ、もう少し驚いてくれたってよさそうなもんだぜ。砦が崩れたこと、せっかく知らせに行った俺の身にもなってくれよ」


 砦の「先読」たちがいなくなるらしい。それはやむをえないことで、都には良くも悪くも関わりはない。そういうことは、なんとなく人々のの間に広まっていたが、こんなふうに、まさに衝撃を残して消えてしまうとは、誰も思っていなかった。


「大丈夫だ、って言うんだよ」

 汰門は、子どものように口をとがらせる。

「則の司様は、砦には誰もいないから案ずることはない、後で誰か調べる者をやろう、ってさ。落ち着いたもんだったよ」


 梧桐は、そのころにはもうほとんどよくなっていたが、塔から落ちたとき肋骨を何本か折り、背筋も傷めて、しばらく身動きがとれなかったのだ。

 梧桐は塔の階段の途中から落ちたことになっていた。てっぺんから落ちたのでは、命があるわけはない。


 あの翌日、汰門が、梧桐の寝台のわきにやってきた。新しい紙に包んだテンのなきがらを持っていた。

 片翼は損なわれずにぴんと伸びて、黒い筋の入った灰色の羽が美しく光っていた。


「見つからないかと思ったけど……」

 汰門は、泣きそうな声で言った。

「おまえ、動けるならきっと、こいつを探しに行くと思ったんだ。俺が草を分けてテンの体を探していたら……」

 汰門は、ちょっと声をひそめる。

「……妙なことなんだ。信じてくれなくてもいい。でも、嘘じゃない」

 誰かに聞かれたらまずい、とでも言うようにまわりを見て、汰門は言った。

「声が聞こえたんだ。聞こえたっていうより、頭の中に誰かがいるみたいに……。うまく言えないけど」


 梧桐は、黙って汰門を見つめた。


 うん。俺も聞いたことがある。


「俺がうろうろしてると、(もっと塔から離れて)とか、(右に寄れ)とかってさ。気味が悪かった。もう、ぶるぶる震えたよ。正直言うと、もうやめにして帰っちまおうかとも思ったんだ。……でも、その声の言うとおりに動いてみたら……いたんだ、テンが。俺が拾い上げて紙に包んだら、その声、なんて言ったと思う?」

 汰門は、梧桐のほうに少しかがんだ。

「(ありがとう)って」

 自分の言うことが自分でも信じられないとでもいうように、汰門は眉をひそめて言った。

「(ありがとう)って言ったんだ。……おまえ、あんまりテンをかわいがったから、こいつ、人のたましいを持つことになっちゃったんじゃないか?」


 梧桐は、汰門の話を信じた。汰門が聞いたのがたましいの声ではないことを知っていたが、それは言わなかった。


 汰門は、テンのことをたいして好きではなかったはずだ。砦に近いあの塔のあたりに行くのだって、本当は気が進まなかったはずだ。それなのに、テンのなきがらを探してくれた。わけのわからない声が聞こえても、踏みとどまって探してくれた。


「ありがとう」

 梧桐は言った。

「本当にありがとう」

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