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1・空を見る少年(5 翔斗のひな)

 夜になっても、翔斗の卵はまだ孵らなかった。思いのほか時間がかかっていて、梧桐は少し心配になった。


 あの厚紙のらっぱでは、中の様子を聞き違えて、実はまだ孵るときではなかったのかもしれない。いや、でももう孵ったっていい時期ではあるはずだし……。卵があることに気づいてから、十五日はたっている。水鳥たちの卵は二十日くらいで孵るけれど、翔斗はもっと小さいし……。


 中をのぞきたいのを我慢して、梧桐は小屋の横にそっと腰をおろして空を見上げた。


 星だ。


 よく晴れたいい夜だ。天の高みで星がまたたいている。

 要の星。天頂にあって動かない。

 梧桐は、今日書き写したことを思い出しながら天を仰いだ。


 まず探すのはしるべの形だ。これは、三つの星がつくる正三角形に近い形で、そのほぼ真ん中に要の星がある。


 梧桐は、静かに体をずらして、短い草の上に仰向けに寝ころんだ。星を見るにはこれが一番だ。


 両腕を枕にして、梧桐は星を見つめた。

 天頂にあるといっても、要の星は真上にあるわけではない。やや北よりに傾いた場所にあり、そこで不動の位置を保っている。天の中心は北の方角にあるのだ。


 道のない荒れ野をいく旅人は、夜空を地図として方角を定める。話に聞く遠い海で、夜に船を出す漁師たちも同じことをしているだろう。陸だろうと海だろうと、星の地図をよく知っていれば、決して心細いことはない、と梧桐は思った。


 星とはなんなのだろう。


 誰かが気まぐれに夜空にばらまいたようでいながら、きちんとその形を崩さない。天は不変だと志多補佐が言ったっけ。


 星がひとつ、流れて消えた。


 流れ星だ。あんなふうに流れて消える星がある。子どものころにも見たことがある。それでも、天は不変なんだろうか。流れる星は、ふっと夜空に現れるような気がする。あれはどこから来たんだろう。そして、流れる星と流れない星があるんだろうか。要の星は、絶対に流れて消えたりしないんだろうか。夜空を観測する先輩たちは、そんなことは心配していないらしいけれど。


 書物には、要の星を中心にまわりをめぐる星を描いた図があった。梧桐の課業は、まだそれを描き写すところまではいっていない。


 梧桐は、ぱっとはね起きた。


 これから、毎晩星を見よう。自分で星のめぐりを図にしてみるのだ。そして、書物の図と比べてみよう。先人のつくった図と同じものができるだろうか。


 その思いつきに高まった気持が少し落ち着くと、ふと頭に冷たい考えが浮かんだ。


 こういうことも、無駄な遊びだと言われてしまうかもしれない。


 梧桐は、その考えを振り払うように頭を振った。


 無駄だと言われたっていい。俺は、できる限りのものを自分の目で確かめたいんだ。だから……。


 そのとき、細い、かすかな鳴き声が聞こえた。

「しまった! 卵が孵ったのか?」

 梧桐は小屋をのぞきこんだ。そして、地面にぼろくずのようなものが落ちているのを見つけたのだ。


 孵ったばかりのひなは、壺の形の巣の入り口から、どういうはずみでか落ちてしまったのだった。か弱い声で鳴きながら、ひなは地面でもがいていた。

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