⭐︎・砦(2 帰らない者)
許しも得ずに誰かの意識を探るようなことはしない、というのが仲間たちの間では当たり前になっている。二の長が「無茶をしない」と言ったのは、ビューなら長が見せたい部分だけにまっすぐにたどりつき、わき見をすることはない、という意味だった。
ビュー自身も、科学や工学に関する知識はたいしてなかったが、二の長の意識に蓄えられた記憶で、必要なことはわかった。
目標としていた星は、今いる星と何もかもが対極の関係にあったということ。その「対極」は、有機体を構成する分子にも及んでいたこと。この世界で人間は生きてはいけない。
修理した船は、長距離の移動が危険な状態だった。正反対の位置にあったこの星までどうにかたどり着き、西の海の底でさらに船の修理をすることになった。けれど、この星では船に使われているような金属がなく、それを精製するには設備が整わなかったのだ。
技術者のひとりが、金属の代わりに岩石を加工して使うことを思いついた。材料となる岩石のある場所を調べたところ、都の東にある低い丘がヒットしたのだった。この丘は、岩の塊だった。技術者たちはここに砦を造り、船に送るために地下の岩を掘り抜いて、その跡は廊下や広間になった。そして、修理が長引くことが確実になったとき、技術者も長たちも、また交替で休眠に入ったのだ。
都の住人たちは、彼らが人々の意識に働きかけた印象操作と、その能力の一部を見せられたことで、彼らが昔南から移住して来た特異な一族であると思い込んだ。
今となっては、実際「昔」といえるほどの時間が過ぎていたのだ。
「私たちは、小惑星の内部に居住空間を造っていたから、いつも一定の気温で、昼や夜は母星の習慣に従ってつくり出していたわね」
二の長が言った。
「でも、ここには季節があるの。今は、涼しくてさわやかないい季節よ。少し前はもっと暑かった。もうすぐ寒くなるけれど、これは暑いよりは楽。空間を暖めるのは、冷やすより簡単だから。寒い時期を過ぎると、だんだん暖かくなってきて、周辺の植物が様々な色を帯びてくる。それからまた暑くなってきて、その繰り返しなの。私たちがここに来てから、そういう季節のめぐりは五十以上過ぎた。船の修理は、しばらく前に終わっている。というより、思ったより時間がかかったとはいえ、実は、修理だけなら、かなり前に終わっていたわ」
二の長は、ビューを、それから三の長を見た。
「私たちの能力は、ひとりひとり違う。そして、心を読んだり、未来を見たりする能力がない……か、低い者もいる。それは知っているわね。なぜか、手先の技に長けた者や、機械や工学のセンスが高い者にそういう人が多い」
専門の技術者ではないが、三の長にもその傾向があった。
三の長は、勘は鋭い人物だったが、意識に働きかける能力はほとんどなかった。彼の心に情報を送ることはできても、自分から発信したり、誰かの意識に触れることはできない。
そのかわりというわけでもないのだろうが、三の長は近距離を瞬間移動することができた。この能力は、仲間内でもほんの少数しか持っていない。彼に関しては、この地上ならば移送装置はほとんど必要なかった。
技術力と知識、そして瞬間移動の能力のために、船の修理の方針が定まってからまず一番に、彼はこの丘に移送装置を組み立てたのだった。
「この星の人たちは自分の心に蓋をする方法を知らないから、私たちみたいなテレパスが接するのはつらいときがある。だから、街に出て行く機会が多かったのは技術者たちだった」
二の長は、ため息をつく。
「私たちは、また別の星を目指して出発してもよかった。それがなぜ今までここにいたか。私たちの確実な未来が見えなかったというのが理由のひとつ。それに、一の長が追いつくかもしれなかった」
二の長は、ちょっと寂しそうに微笑んだ。
「そして、もうひとつ。街に出かけた技術者の中に、戻って来ない者たちがいるの。戻らない者がいることに、最初に気づいたのは最近じゃない。季節のめぐりにすれば、三十も前のことなの」




