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帰路
車は進む。あの後特に苦難の一つもなく、一時間を超えるお経の果てに平穏は訪れた。その日の夜は春斗も冬子も揃って震え怯え寄り添いながら不安に押し潰されてしまいそうな夜を、猛暑に浸食された冷たい夜を過ごしていた。月が氷の塊のように見えていて、特にこの世の外側の者がいたわけでもないにもかかわらず危険を勝手に感情として染み込ませていた。
次の日になって無事を確かめて天音と晴香は三滝の取材に応じるという形で近所のビジネスホテルの一室を借りて残ったそうだが春斗には次の日の仕事が待っていたためすぐにでも帰る事が決まってしまった。
あまりゆっくりと過ごすことが出来ずに名残惜しさを残しつつも祖母に別れを告げて車を走らせた。
今この目に映る景色は美しさを持っている。穢れた気配など一切見られなかったものの、この世界からなくなったわけではない。見えるものだけが全てというわけでもなく、見えないものにこそ気を付けなければならない。
いつどこでそれが襲って来るものか想像すらつかないのだから。




