メヒィアの翼の事情
女性はこの後用があると言って何処かに行き、取り残された私は、何か話さなければと、男性に適当な話題を振ることにした。
「ここのパーティーメンバーは他にもいるんですよね。どんな人なんですか?」
「そうだな、勝ち気で、表情がコロコロと変わる人、かな。僕の妹だから、人柄は保証するよ」
なるほど。この人とは正反対のタイプか。良くも悪くも、嫌われたらすぐに分かりそう。さて、次の話題を考えないと。何か自然なもので…。あ、思いついた!
「あの、私もパーティーに入ることって可能ですか?」
「パーティーに入る?」
私の提案が予想外のことだったのかそのまま聞き返された。まぁ、盗賊に襲われていた女性が戦えるとは思わないしね。私も思わない。そして男性が思ってるように弱い。
「何もしないで住まわせてもらうのは少し気になるので…迷惑でしょうか?」
ちなみに「気になる」というのは周りからの私の評価が、というものである。正直、周りの人が悪く思わないなら私は気にならない。そんな事言うつもりはないけど。
「うちはある程度難易度の高い依頼も受けるからな…ソロで冒険者をするのはどう?僕がサポートするよ」
「いいんですか?」
普通に断られると思ってたんだけど。
「うん。それじゃあ冒険者になるなら実力を知っておきたいし、今から訓練場に行って得意なこととか見せてもらっていい?」
「はい。よろしくお願いします」
「それで、具体的に何をしたらいいんですか?」
訓練場に着いたので、早速何をすればいいのか尋ねる。
「そうだね、まずは、じっとしててくれないかな?」
「え?」
どういうこと?と思っていると、いつの間にか男性が後ろに回り、私の首にナイフを突きつけた。
…というのがこうなるまでにあったこと。つまりどういうこと?と言われると私は答えられない。私も分からない。私も聞きたい。これは私の実力を測る試験かなんかだろうか。
「あの〜、これはどういうことでしょうか。この状態から抜け出せということですか?」
恐る恐る男性に聞いてみる。
「違う」
まぁテストだったら難易度バグってるよね。それにしてもこれ、本気なのか〜。私に人質としての価値なんてほぼないのになんでだろ。
「お前にはこれから質問に答えてもらう。抵抗しようなどとは思わず素直に答えろ」
「お前」扱いにランクダウンしてるな。私なんかしたっけ?それとも最初からこうするつもりだった?後者だったら対処のしようがないな。
「まず、お前がついている嘘について言え」
「嘘?」
確かに記憶喪失っていう嘘をついてるけど…
「ナナリーは嘘をついているかどうか分かる。お前が嘘をついてることを見抜くなんて造作もないことだ。」
なるほどね。でもさ、異世界から来たなんて普通信じられないじゃん。嘘を見破れるなんて知るわけないじゃん。どうしたらよかったわけ!?…正直に話せばよかったのはわかってるけど…とりあえず正直に話すか。
「確かに私は嘘をつきました。でも、これから話すのは荒唐無稽な内容になります」
「話してみろ」
話すからこのナイフどけてくれないかな〜。無理だろうけど。
「えっとですね、まず………という感じです。」
(裸になった事を伏せて説明した)
普通信じないだろうな、こんな事。私だったら信じない。
「信じがたいが、嘘はないようだな。ナナリー、出てきていいぞ」
私が一通り話し終えると男性は私を解放してナナリーさんを呼んだ。ナナリーさん、いたんだ。もしかしていざという時(私が男性を倒した時)のために隠れてたのかな。
「すみません、アリアさん。出かけたふりをして影から見ておりました。」
「いえ、警戒するのは当然のことですから」
出てきたナナ…さんに謝られ、優しい人だな、と思いながら言葉を返す。
「ただ、なぜこれほど警戒されたのか、教えてもらいたいです」
NG行動を知っとかないと、もうナイフを突きつけられるのはごめんだからね。
「そうですね。詳しくはいえないのですが…」
それから男性と女性は大まかな事情を話してくれた。
2人のパーティーのメンバーである人は、いいところの出で、家の争いから逃れるために冒険者になった時に護衛として2人がつけられたらしい。男性の妹っていうのも嘘だそうだ。
護衛なら強くて納得だ。まぁそのお嬢様も強いっぽいけど。
「だいたいの事情はわかりました。この話は他言無用にしときます」
「ありがとうございます」
女性がほっとしたように笑う。私が人に言いふらすようだったら私を片付けなきゃいけないし、人殺しはいい気分ではないだろう。
「僕からも謝罪してもいいかな」
「謝罪?」
何かあったっけ?
「無実の女性に凶器を突きつけるなんて、あってはならないことだろう?」
「私が悪い部分もあったので気にしないでください」
そもそも嘘ついてる時点で有罪だからね。
「君は優しいね」
「いえ、そんな事ないですよ」
本当にそんな事ない。都合が悪い部分を言っていないだけだ。そしてこれからも言う気はない。
「話も一区切りつきましたし、上でお茶でも飲みませんか」
「いいですね」
「ああ、そうしよう」
「では、先に上に上がって準備しますね」
「ありがとうございます」
女性が入れるお茶、美味しいんだろうな。って、あれ?私、なんで訓練場に来たんだっけ?