初めてのギルド
「じゃあ、歩きながら自己紹介をしようか。僕の名前はルーフェス。このパーティーのリーダーなんだ」
まず最初にルーフェスさんが自己紹介をしてくれる。ルーフェスさんは赤髪に緑の目をしたイケメンで、女性に対して優しそうな人だ。
「私はナナリーよ。回復魔法が使えるから、もしどこか怪我をしたら頼ってね。」
次に自己紹介してくれたのはナナリーさん。銀髪に紫紺の目をしていて、どこか天然っぽい雰囲気である。
ちなみに名前は今言われたばかりだから覚えているのであって、すぐに忘れる自信がある。アニメとかで聞いたばかりの名前を簡単に覚えてるけど、そっちのほうがおかしいのだ。(ギル様とメヒィアさんは喧嘩(?)中何度も名前を言っていたので覚えた)
「私の名前は…あ」
名前を言いかけて記憶喪失のふりをしているんだから言っちゃだめだということに気づく。
「…覚えてないので…アリアとでも呼んでください」
「わかりました。アリアさん」
「わかったよ、アリア」
とっさに偽名を考えてやり過ごす。この偽名、忘れないように気をつけないと。アリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリアアリア……
「もうすぐ出られるよ」
偽名を忘れることがないよう頭の中でひたすら復唱していたらどうやら森の出口付近に来たようだ。
目を凝らして前方を見ると高くて白い塀と人が見える。
「通行証をご提示ください。」
塀のところまで行くと兵士らしき人が通行証の提示を求めてきた。困った。そんなもの持ってないぞ。いや出そうと思えば出せるけど後で作ったことがバレたら困る。
私がどうしようかと考えながら2人は銀色のカードを兵士の人に見せていた。
「どうしたんだい?」
すると、私が困っていることに気づいたのか男性の方が話しかけてきた。(名前はもう忘れた)
「私、通行証を持っていないみたいで…」
「ああ、君が通行証を持っていない可能性もあると考えたらわかったのに気づいてあげられなくてごめんね」
私が困った顔を作って男性にそう言うと、男性は申し訳なさそうに謝ってきた。気付くほうがすごい気もするので優しすぎないかと思う。
「いえ、私の方も気づかなかたので」
「門番には僕が話しておくよ」
「ありがとうございます」
話して解決するものなのか?とお思いながら門番さんと話している男性をみる。ん?これ、たぶんこの世界の常識に入るよな?常識がわかるようにしてほしいとあらかじめ頼んでおいた私は記憶を探る。
え~っと、普通出入りするには何かしらの通行証が必要で、それがないなら個人情報を紙に記入して通行料を払い、身元がしっかりしている人に保証人としてサインしてもらわなければならないらしい。保証人がいるのは多分治安のためだろうな。個人情報と通行料は…あれ?これどうするんだ?
「話はつけたから街に入ろうか」
私が記憶を探っているうちに話は終わったらしい。
「あの、個人情報の記入や通行料などは…」
「記憶喪失の件は話しておいたしお金は僕が払っておいたから大丈夫だよ」
「ほんとにありがとうございます」
私がお礼を言うと、男性は気にしないでと笑顔で答えた。この笑顔にコロッとおちる人いそうだな。
「後ろにも人がいるから早く入ろう」
その言葉で初めて後ろに人がいるのに気づき、私は慌てて中に入った。
街はいかにもアニメに出てきそうな中世ヨーロッパ風で、多くの人が行き交っていた。
「ギルドが見えてきたわよ」
私が街並みを眺めていると周りの建物よりも大きくて立派な建物が見えた。『冒険者ギルドソレイユ支店』と書かれているので間違いないだろう。そういやこれなんで日本語なんだ?忘れてたけど話してるのもそうだし…まあ、どうせ考えてもわからないか。
とりあえずいったん頭の隅に疑問を追いやって中に入る。
ギルドの中は老若男女問わず色んな人がおり、まあいかにも冒険者ギルドと言う感じだった。
私たちは右のほうにある空いている受付に向かって歩いていく。
「こんにちはゾゾさん。今日もおきれいですね」
「御冗談を。もう依頼を達成されたんですか。確か盗賊の捕縛でしたよね。こんな短時間で終わるなんて、さすが『メヒィアの翼』の皆さんですね」
男性が口説き受付のお姉さんが頬を染める。薄々感じていたがこの人女たらしだな。自覚ありの。メヒィアの翼っていうのはたぶんこのパーティーの名前で、さっき会ったあのメヒィアさんの名前を使ってるんだろうな。
「いえ、まだまだですよ。さっそく盗賊の受け渡しをーと言いたいんですが、実は、この女性がその盗賊に襲われてたので助けたのですが、どうやら記憶喪失のようなんです。」
「記憶喪失、ですか…ギルド長を呼んでくるので応接室でお待ちいただけますか?」
「はい、ありがとうございます。じゃあ移動しよう」
冒険者ギルドのギルド長か〜。綺麗な女性とたくましい女性とたくましい男性のどれだろうか。
そういや、普通に歩いてるけどなんでギルドの応接室の場所なんて覚えてるんだろう。
「よく応接室を使ってるんですか?」
「私たちは護衛仕事をすることがあるんだけど、相手が高貴だったりそうじゃなくても裕福だったりすると応接室で待ち合わせをするの」
「なるほど。そういうことですか」
2人は顔がいいしたぶん実力があるからその手の依頼はよくしてるんだろう。
応接室に着くと、ルーフェスさんが飛びかを開けて先に入らせてくれた。
応接室は机を挟んだ両側にソファーがあり、床に絨毯が敷かれ、壁には絵が飾られ、棚には高そうな武器が置かれていた。高貴な人も使うみたいだしある程度豪華じゃないとダメなんだろうな。
入って左側のソファーにみんなで腰掛けて待っているとすぐにドアをノックする音が聞こえてきた。
「入るぞ」
一言短く断って強そうな体つきの大柄な60ぐらいの男性とさっきの受付嬢さんが入ってきた。
「ギルド長、お久しぶりです」
そう言いながら2人が立ったので慌てて立つ。
「ああ、久しぶりだな。そちらの嬢ちゃんが記憶喪失の子か?」
記憶喪失の子とはもちろん私のことである。
「はい、私です」
ギルド長は私をジッと見たあと、ひとつため息をついた。
「とりあえず座れ。話をする」
書くのって時間がかかる……