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第八話 宇宙へ

 ニベ公国第一採掘場での戦いの後、ビーサムのクルーは後始末に追われていた。残骸の回収・破棄、捕虜の輸送、補給、修復などのやるべきことが多い彼らは、ニベ公国の本拠点に帰還していた。艦長ライアスと副艦長、そしてカークス部隊の隊長アレスのみで本部に諸々の報告や手配をしに行ったため、セーマを含めた他のクルーは休みを満喫していた。


 そんな休みは突然終わりを告げる。


「……というわけで、俺たちは宇宙に上がることになった。準備を進めるように」


 帰ってきた艦長がクルーに向けて言い放つ。クルーたちから若干不満の声が漏れるが、それをはっきりと言葉にするものはいなかった。


「まあ当然でしょう。私たちが戦闘したのも宇宙で戦力が足りていないからでしょうし」


 オピスは納得したように頷き、その言葉に艦長が返事をする。


「そうだ。だからニベ公国の上層部は宇宙に戦力を集中させ、殲滅するつもりだ。今回は戦闘が激しくなる。宇宙に上がってすぐに本隊に合流するから、整備班はカークスの調整の準備をしておけ」


 セーマは声を潜めてシュリに話しかける。


「シュリさん。調整って何ですか?」


 セーマの問いにシュリは「確かにセーマ君は宇宙初めてだもんね」と言ってセーマの問いに答えた。


「宇宙は空気抵抗が少なかったり、重力がなかったりするから操作感が変わるのよ。モートだったらちょっとスラスターの出力とか反応をいじるだけでいいんだけど、モープだったら宇宙用に装備の換装とかしないといけないの。安心して、アストレアも宇宙で動かせるように調整するから。まあ宇宙での操縦になれるためにもテスト飛行してもらうけどね」


「なるほど…ありがとうございます」


 一を聞いたら五くらい帰ってきたことにセーマは驚いたが、自分のために作業してくれるとのことなので感謝を伝えた。


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマたちは、特にこれといったトラブルもなく宇宙に打ち上がり、本隊と合流する前にカークスの調整をしていた。


『どおー?セーマ君。一応操作できるレベルにしたはずだけどー?』


 シュリの優れた技術によってアストレアはいち早くテスト飛行をしていた。


「結構考えた通りに動きます。すごいですね。アレスさんが宇宙の方が好きって言ってたのも納得ですよ」


 セーマは宇宙でテスト飛行をしながら、地上で味わえない類の自由を感じていた。


『調子乗ってスピード上げたらそのアレスみたいに一瞬気を失うことになるから気を付けてね』


「はい…」


 セーマは人の黒歴史の一端を聞いた気がしたが、気にしないことにした。


 その後、細かい調整をした後、セーマは他のパイロットがやってくるまで少し長めにテスト飛行をしてビーサムに帰還し、全員の調整が終わるとビーサムは本隊に合流した。


 ―――――

 ―――

 ―


『今から三時間後、奴らに一斉攻撃を仕掛ける。警戒と牽制を続けつつ、攻撃準備をするように』


 ビーサムとは違う母艦からの通信が届く。セーマは三時間後に迫った戦闘に少し緊張が混じったような憂鬱な気持ちだった。セーマは今ビーサム内で休憩をとっており、ビーサムの窓から見える他の艦や機体が作り出す光の線をぼんやりと眺めていた。しかし、眺めているのも飽きたのか、アストレアが格納されているスペースへ向かった。


 セーマはアストレアのコックピット内に入り、会話をしていた。アストレアには高度な人工知能《AI》でも積まれているのか、セーマの声に反応してモニターに回答を映し出す。事情を知らない人が見たら大きなひとりごとを話す変人である。暇なセーマはしりとりのルールを教えてしりとりを楽しんでいたが、セーマが降参したところでモニターに文字が映る。


〈提案:機体性能を引き出すためのパイロットスーツの製作〉


 てっきりしりとりに関して何か言ってくると思っていたセーマだが、その一文を見て疑問に思う。


「パイロットスーツの製作?」


 そんなセーマの疑問に答えるようにモニターの表示が切り替わる。映し出されたのはパイロットスーツの構造や素材などが表示された設計図だった。しかし、問題点があった。セーマにはパイロットスーツを製作してくれる人に心当たりがない上、ちょっと前まで採掘をしていた関係上覚えていた、鉱石の知識と照らし合わせるとかなり高価なものであることが分かった。


「シュリさん、ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど…」


 それでも相談した方がいい案件である。セーマはシュリをコックピットに誘い、設計図を見せた。その設計図を見たシュリは困ったような顔をする。


「うーん、さすがにニベ公国だとこれを準備するのは無理かも…帝国だったら可能だと思うんだけど…」


「ですよね…さすがに値段が高くなるのは自分でもわかりますし」


「そうだねぇー。モープぐらいなら買えそうだよね。まあどっちにしろ今回の作戦が終わってからかな。今は時間もないし」


「わかりました。ありがとうございます、相談に乗ってくれて」


「いいっていいって~。戦力が上がるのは良いことだしね。でも機体の方がパイロットに提案するなんて初めて聞いたけどね」


 それだけ言い残してシュリはアストレアのコックピットから出ていく。


 戦争の足音はすぐそこまで来ていた。

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