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第三十二話 決断の時

「君はバルホールまで帰ることはできない」


 その言葉にセーマは思わず青年の方を見る。


「それだけあのアストレアは強大だってことだ。…ガルドラ連邦のアストレアは限られた者しか乗ることができない。何か条件があるのだろうとも言われている。…その条件は不明だがね。そしてその力はまさに圧倒的。そのため、ガルドラ連邦では乗れる者の中で、最も優秀なものにアストレアは渡される」


「そんな条件があるんですね」


「ああ。しかしアストレアには不思議なことがある。それは情報がほとんど無いという事だ。製造した場所も人物も正確な情報は無い。操作できる条件もわからなければ、アストレアが発生させる超常現象もなぜ起こるのか不明だ」


「超常現象ですか?」


「身に覚えはないか?例えば敵の攻撃がアストレアに当たらなかったり、操縦する手が勝手に動くように感じたり、逆にアストレアを自分の手足かのように動かせたりなどの様なことだ」


 セーマの脳内に、盾に当たる前にビームが曲がっている光景が浮かんでくる。それ以外にも、ミカと戦った時を思い返すとアストレアを思った通りに動かせていた気がした。


「心当たりがあるようだな。私はパイロットの決意のようなものがその現象を引き起こしていると思っているのだが、その真偽は不明だ。ガルドラ連邦はその現象を自在に使いたいと考えているらしい。私は貴族でそれなりの権力があるからある程度の自由がある。しかし君はどうだ?君は敵国の人間だ。それに加えて子供でありながら一定以上の戦果を挙げている。高貴な人物でもなくバルホール帝国にとっては一人の子供でしかない。こんなにも都合の良い人材を、狂った研究者どもが手放せると思うか?」


「それは…」


 セーマは自分に訪れるかもしれない最悪の想定をする。


「私は君にそのような目にあってほしくないと思っている。もし妹に知られたら一生口をきいてくれなさそうだしな」


「何か良い方法があるんですか?」


「アストレアに乗ってこの艦から逃げ出すんだ」


「そんなことができるんですか?」


「ちなみに、君の逃走を見逃すのは私と、以前君と合った軍人の二人だけだ。そして君がこの艦から離れるという事は、君はこれから一人でバルホール帝国まで逃げないといけないことを意味する。…君には一人で戦い続ける覚悟はあるか?」


「それは…どういう意味ですか?」


「この周辺はもうガルドラ連邦軍がいる。さらに言えば、バルホールまでまっすぐ帰ろうとすればガルドラ連邦の基地がある。君は迂回して帰ることになるだろうが、それも必ずしも安全というわけではない。当然どこかでガルドラ連邦と交戦しないといけないだろうしな」


「そんな…」


「それだけじゃない。発展しきっていない星に補給に行こうとすれば宙賊もいるだろうし、その星で戦争が起こっているかもしれん。……人を殺す必要があるかもしれない」


「僕は…人を殺すことなんて…」


「でなければ君が死ぬだけだ。いいか、生き残るためには自分を一番に考えて自分を守るしかない。自分を守るためには…戦うしかないんだよ。当然、自分以外を守るためにも戦わねばならん。そして戦時下では戦うことは人を殺すことと同義だ」


「っ…」


「もし君が人を殺したとして、気に病む必要はない。人を殺すことが家族や仲間、自分の命を守ることに繋がるのだ。そしてそれは軍人ならば誰もが理解していることだ。無論、私もな。…もし君が私を殺しても、私の家族は誰も君を責めたりはせんよ。戦争という環境が君にそうさせたのだ。私の家族はそのことを理解できる」


「理解しても、納得はできないんじゃないですか?」


「そうかもしれないな。だが、だからと言って君は戦わないのか?もし家族が危機に直面していたとしても?……そうだな、もし君がここから逃げた後、どうしても戦いたくないのであれば、この場所を訪ねてくれ」


 シルトが何かをメモに書き、それをセーマに手渡す。


「これは…座標ですか?」


「その場所はまだ未発展の星なんだが…そこには私の別荘とでもいうべき場所がある。そこに住んでいる人に私の名前とアストレアの名を出せば私に連絡が来る。君はアストレアと別れることになるが…君の命はかなり安全になるだろう」


「未発展の星に別荘が?」


「妹がその星にかなり興味があるようだったのでね。発展していない分自然も豊かでいい所さ。…戦争が終われば、一度妹とそこへ行こうと思っていてね。そのためにも私は戦うのさ。…君はどうだ?決断の時は今だぞ」


「僕は…」


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマはシルトの協力もあって、こっそりとアストレアに乗り込み、ひたすらに時を待っていた。


(シルトさんが言うには、数分後に戦艦の点検があって、戦艦と宇宙空間を隔てる扉のロックが解除される。その時に何機かカークスが出ていくから、タイミングを計って一気に飛び出す!)


 セーマは、シルトから受け取ったメモリをアストレアに接続し、モニターで後の経路を復習する。


〈お久しぶりですマスター。データをモニターに表示します。〉


(シルトさんに教えられたルートでもガルドラ連邦との交戦を避けては通れない。けど、そこを振り切ったらシルトさんが教えてくれたアストレアの高速航行システムとかいうのを起動すれば次の星まで行ける。食料も貰ったけど、絶対にいくつかの星で補給をしないといけなくなる。……バルホールまで最短でも一か月はかかるらしいけど、アストレアと僕なら無事にたどり着けるはずだ)



『総員、これから点検を開始する。当番のカークス隊は外で警戒に当たれ。当番以外のカークス隊も準備だけはしておけよ』



 アストレアの目の前をカークスが通過していくのをセーマは音と振動で感じていた。


(一機、二機、三機、四機、五機、六機……このカークスが最後か。よし!)


「アストレア起動!」


〈アストレア起動します。〉


(もう後戻りはできない。僕は絶対にここから生きて帰る)


 アストレアは自身を拘束していたカークス固定装置を引き千切った。

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