文化祭を飛び出して月へ行こう
文化祭当日。図書室の扉の前できょろきょろする少女。
少女は施錠されている筈の鍵を開けてそそくさと中へ。
それを追い、本棚の向こうを覗き込むと、
びたぁんっ! と壁にクラスTシャツを投げ付ける少女。
「え?」
「は?」
思わず声を上げてしまった僕と、それに気付いて振り向く少女。
「~~~~!」
白い肌を隠して座り込む彼女に、僕は慌てて背中を向けた。
「……暮里先生、ですか?」
「そうです、暮里修一です。キミは、高見さん?」
「はい。……もういいですよ」
恐る恐る振り向くと、セーラー服を着た図書委員の高見円さん。
「え~と、サボり?」
「……はい」
気まずそうに頷き、そのまま床に座り込む。僕もそれに習い床に。
高見さんとは別段話す仲では無かった。それでもこの状況や先程のライトブルーのアレのせいか、口が勝手に滑り出す。
「理由を聞いても?」
「……クラスの出し物が、ダンスだからです」
「うっわ」
「そうですよね、うっわ、ですよねっ!?」
そこから高見さんは、堰を切ったように捲し立てた。
「ダンスなんて得手不得手があるのにみんなで壇上に上がれとか、流行りだかなんだか知りませんけどあんな恥ずかしいのをみんなで合わせろとか、ゆっくりでいいよとか優しくされるのも嫌だし軽く笑われてイジられるのも嫌だし、そもそもあんな「みんな」の中に入りたくなんかないんですよっ!」
そして不意に我に返ったのか、体育座りをし、自分の膝に顔を突っ伏して、
「わかってるんです。がんばれない私がダメなんだって」
「……僕は、がんばっていたと思います」
ちら、と顔を上げる。
「特に理由は無かった。ただ、そう。ノリが合わなかった。合わせられなかった。でもそれはそれで、あの頃の僕はがんばってはいましたよ」
「……先生の話、ですか?」
頷く。
「人が当たり前に出来る事が出来無い。その罪悪感に負けながら、押し潰されながら、泣きながら、苦しみながら、がんばって息を吸って吐いていました。例え他の人には理解されなくても」
高見さんは、ぽろぽろと泣き出した。声を上げそうになって、口唇を噛んで堪える。
「だからきっと、高見さんもがんばっていますよ。それが否定されるんなら、僕も一緒にされますから」
「……私、がんばって、ますかね?」
「たぶん」
笑う。
「僕達は、こんなに息苦しい所で呼吸が出来てるんです。きっとお月様でだってやっていけますよ」
笑い合う。
「お月様でなら、ダンスもしやすそうですね」
最初は「文化祭を飛び出して三日月へ行こう」ってタイトルでしたが、三日月感がクレッセント先生だけだったのでただの月に。
メッセージ性あるやつ書こうと思っていて、こんなんなりました。
中学の頃登校拒否してたんですよ。
で、なにが言いたいかと言うと、「ダメ人間はダメ人間なりにがんばってたんだよ」と。
崖っぷちに必死にしがみ付いていた、というよりは、崖っぷちから伸びた木の枝に引っ掛かっていた、みたいな。
人からはなんにもしてないように見えても、バランス取ってるのも大変なんだぜ?