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私は罪なサキュバスさん  作者: ヒカラ美草
4/13

4.石鹸


 温かいお湯が、私の体に付いた泥を洗い流す。

 私は今、ルーゼにつれられた兵舎の浴室で湯浴みをしていた。

 

 ここに連れられたときは大変驚いた。

 私の村では湯浴みは、村人共通の井戸から水を汲み上げて外で体を洗うものだった。

 水は魔力を使い温めていたが、それも冬の寒い日だけ。


 このように家の中に湯浴みをする場所を設け、尚且つ魔力を使わず、常時温かいお湯が出るなど信じられない光景だった。

 このような設備を造れる辺境伯は、やはり物語の方なのかもしれない。


『ミスト、棚の中に着替えを置いておくから、体を洗ったらこれを着てくれ』


 浴室のドアの向こうからルーゼの声がする。

 私はその声に「分かりました」とだけ返した。


 そしてルーゼは脱衣所から出ていく。

 私は頭と体を洗うべく、石鹸を探す。


 そして、固まった。


 なんか石鹸の他にも色々と置いてある....っ!?


 私が手を伸ばした先には石鹸以外にも、小瓶から大きい瓶まで、液体の入った瓶が沢山並んでいた。


 ど、どういう事だろうか?

 私が村で、普段体を洗う時に使っていたのは、油脂と灰汁液で作られた石鹸だけだった。

 なんでこんなにゴチャゴチャ置いてあるのだろう?

 石鹸一つで十分ではないのか?


 まぁ良いかと思い、石鹸を手に取る。

 そして泡を立てたとき、私は再び固まった。

 

 その泡から発せられたであろう柑橘類の爽やかな匂いが、私の鼻腔をくすぐったからだ。


 「—―――――ッ!?!?」

 

 思わず仰け反り、大げさな反応をしてしまう。

 これは....ただの石鹸ではないっ!?


 石鹸とは、今まで体の汚れを落とすだけのものだと思っていた。

 だがこの石鹼は汚れを落とすだけでない。

 汚れを落とし、尚且つ匂いで楽しませてくれるというお楽しみ付きだ。


 いやしかし、辺境伯なる御仁....大変恐れ入った。

 石鹸に匂いをつけるなんて、本当に物語の方なのだ。


 もしや....?

 私の中にある考えが浮かぶ。


 この色々と置いてある何かも、匂いで私を楽しませるものなのかもしれない....


 私は試しに、ドロッとした液体の入っている瓶を手に取った。

 瓶の表面に何か書いてあるが、生憎と私は字は読めない。

 

 私は試しに瓶のふたを開け、手のひらに少量の液体をかける。

 すると今度は嗅いだこともない甘い匂いが、浴室中を包んだ。


 「わぁ—―――」


 息が漏れる。

 

 お花の匂いだろうか?

 甘い匂いの中に、どことなく上品さを感じる。


 私はそれからとても楽しくなり、手当たり次第の容器、石鹸の匂いを試していった。

 それはもう新たな発見が次々と現れて....


 ....結果的に浴室が泡まみれになり、滑って転んで我に返った。


 それから泡が一つもなくなるまで洗い流すのに苦労するのは、また別のお話。


 ◇

 

 浴室から出て、脱衣所でルーゼから指定された布で体を拭く。

 体を拭く布ですらフワフワしている。

 何なんだ、この屋敷は....

 

 それからルーゼの用意したであろう服を手に取る。

 やはり綺麗な服だ。袖を通すのですら緊張してしまう。


 私は着替え終わると、事前に説明されていた一階の広場に向かう。

 浴室はルーゼの個人のもののようで、ルーゼの部屋のある二階に位置していた。

 

 私は階段を下り、一階の広場に着く。

 そこには既に、ルーゼが私を待っていた。


 「お、来たねミスト。どうだったお風呂は?体は綺麗になったかい?」

 「はい、お陰様で体を洗うことが出来、さっぱりしました。改めて、浴室を貸してくださりありがとうございます」


 私が頭を下げると彼女は微笑みながら言った。


 「いやいや私がしたくてやったことなんだ。気にしなくていい。でも、本当に綺麗になったね。やっぱり私の目に狂いはなかった。君の綺麗な桃色の髪も顔も、そうしていれば曇りなく映える」


 そう言いながら、私の髪を優しくなでるルーゼ。

 そして撫で終わると、今度は真面目な声質となり、私に問いかけてきた。


 「ミスト、辺境伯に君のことを話した」


 少しの間。

 私は上を見上げ、ルーゼの顔を見る。


 「辺境伯は君を喜んで受け入れると仰って下さった。そして、君に挨拶と今後のことについて話したいとも仰っている。だから今から君を辺境伯の元へ連れて行こうと思うのだが、構わないね?」


 挨拶と今後のことについて....

 元々少しの間は厄介になろうと考えていたし、その場合、屋敷の持ち主への挨拶は礼儀だ。

 それに今後の私についてはルーゼと話し合おうとしていたので、渡りに船。

 着いて行くのが賢明だろう。


 「はい、分かりました。辺境伯に挨拶をさせてください」


 そう言って私はルーゼに着いていき、辺境伯のいらす屋敷本館へと向かった。



 


 


 




 実はミストが遊んだ液体の中には、ルーゼがその日たまたま置いていた風呂掃除用の洗剤がありました。シトラスの香りのする洗剤だったのですが、ミストはそれを気に入り、風呂掃除用洗剤で頭を洗っています。


 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!

 もし気に入ってくださったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』と評価して頂ければ嬉しいことこの上ありません。

 もちろん★×5でなくとも構いません。評価してくださるだけで、誰かが見てくれてる!と嬉しくなり作者の励みになります。

 感想もお待ちしております。アドバイス、面白かった等の感想、じゃんじゃん送ってください。

 誤字脱字報告もしてくださると嬉しいです。

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