3.夢が詰まった場所
「ミスト....ほら起きて、もうすぐ屋敷に着くよ」
「—――――ん」
ルーゼに声を掛けられ、私は目を覚ます。
寝る前よりも大きな振動を体に感じる。
聞こえてくるのは、パカパカとゆっくりと響く馬脚音。
私が瞼を広げると、目の前には真っ赤に染まった楓の木々が広がってた。
「お、起きた。おはようミスト」
頭上からルーゼの声がする。
正面を向くと、目に入るのは綺麗な毛並みをした馬の後頭部。
「ごめんね。本当は寝ている君が安定するような体勢がよかったんだけど、生憎そこまで準備ができていなくてね。私が前に抱えるようにして、君を馬に乗せたんだ」
ルーゼの説明で納得がいく。
どうやら私はルーゼに抱えられて寝た後、馬に乗せられたらしい。
ただ寝ている私を馬上で安定させる手段がなかったらしく、私を背中から抱くような形で馬に乗って運んだみたいだ。
「この体勢では、どうも君の顔が見づらくてね。せっかくの可愛い寝顔なんだから、もっと眺めていたかったんだが....まぁいいか。とりあえず、もうすぐ屋敷につくよ」
屋敷....
ルーゼは、恐らくとても身分ある人なのだろう。
だって身なりも今までにないほど綺麗だし、今までにない美味しい食べ物を持っていた。
それに屋敷....そのような言葉、お母さんやお姉ちゃんたちがよく読み聞かせしてくれた物語の中でしか聞いたことがない。
そして物語の屋敷は、夢のようなお金持ちの人が住んでいる場所だ。
「さっきも言ったと思うけど、今から行くのは私が勤めている屋敷。ここら辺一帯を治めているギザベア辺境伯の屋敷だ。私はそこで普段、辺境伯直下の騎士団で団長をしているんだ」
その言葉を聞いたとき、私の心臓はキュッと萎んだ気がした。
辺境伯....物語で聞いたことのある貴族様の階級。
今の私では、はかり知れまないがとてつもなく偉い人だということはわかる。
そこの騎士団の団長....私もすごい人に拾われたものだ。
「....ごめんね。驚いただろう。初めて会ったときはすまなかった。あそこで名乗れば君は委縮してしまって、私に色々と遠慮してしまうかもしれないと思ったからね。だから名乗らなかったんだ」
すまないねと再び言うルーゼ。
私はその言葉に首を振った。
「いえ、ルーぜさんが誤る必要はありません。助けてもらった身として感謝こそすれど、文句など有り様がありません」
「そうかい....わかった」
少しの間。
そしてまた会話を続ける。
「話の続きをしよう。君は今から屋敷の騎士団の宿舎で体を洗ってもらう。着替えは私が用意しよう。君を招く許可はその時に私が辺境伯からいただく。なに、辺境伯は気がいい人だ。路頭に迷っている少女を保護するなどは、喜んで引き受けてくださるだろう」
ルーゼがそう言うのなら、信じるしかない。
まぁどのみち信じることしかできないのだが....
「体が洗い終わったら、兵舎の一階にある広場で待っていてほしい。大丈夫、着けばわかる....私が迎えに来るから、その後に君の今後の身の振り方について考えよう」
今後の身の振り方....どうするべきだろうか。
恩を返すという形でルーゼのところで住み込みで働く?
いや住み込みということは、屋敷側に一人養う者が増えるということだ。
逆に迷惑になりかねない。
「お、ほら着いたよ。ここが屋敷だ」
ルーゼが正面を指さす。
私が指が向く方に目を向けると、綺麗に剪定された木々が立ち並ぶ広場が広がっていた。
「わぁ....」
そして広場の奥には、物語のお城のように大きな建物が。
太陽の光が建物のガラスに反射してとても綺麗だ。
その時の私には、その建物が物語のように夢が詰まっているように見えた。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!
もし気に入ってくださったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』と評価して頂ければ嬉しいことこの上ありません。
もちろん★×5でなくとも構いません。評価してくださるだけで、誰かが見てくれてる!と嬉しくなり作者の励みになります。
感想もお待ちしております。アドバイス、面白かった等の感想、じゃんじゃん送ってください。
誤字脱字報告もしてくださると嬉しいです。