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第36話 アンデッドの巣窟

お待たせしました。


 私たちは、”混沌の玉座(ケイオス・レガリア)号”から廃棄コロニー『コーンウォール』に降り立つ。


 目の前の分厚い金属製の気密隔壁の向こうは、無数のアンデッドが徘徊していることだろう。気配を把握できるだけでも近くに30体ほどいそうだ。


 私が知覚できる狭い範囲内にその数だ。コロニー全体となったらどれほどの数になるのか考えたくもない。しかし、私たちは行かねばならないのだ!


「マスター。念のためこちらをお持ちください」

「ん? なんだこれは。弾丸か……?」

「はい。魔導銃アル=アジフ用の実弾です」


 ルルイエが差し出してきたのは、数発の実弾が収められたケースだった。

 愛用する零式増幅魔導銃アル=アジフは、魔弾を放つだけでなく実弾も発射できる単発式の銃である。


 この先は何が起こるかわからない。魔力が効かない上位種のアンデッドがいる可能性もある。そういう魔物と出会った場合に備えて実弾を持っておくのは良い提案だ。


 鎌を奪われてしまったからな。一つくらい物理的な攻撃手段があったほうがいいだろう。


「助かったぞ、ルルイエ。ん? 一つ透明な弾丸があるようだが、これはなんだ? 中に液体が入っている……?」


 見慣れぬ透明なガラスっぽい材質の特殊な弾丸に私は首を傾げる。弾丸の中を満たしているのは液体爆薬か? にしてはなんだか嫌な気配が……。


「その弾丸の中身は聖水です。押収した聖水を使用しました」

「ぬおぉっ!? そんな危険物をアンデッド(わたし)に持たせるな!」


 薄らと漂う嫌な気配は聖水の気配だったのか!

 慌てて返そうとするものの逆に突き返されてしまう。


 聖属性の力が込められた聖水は、アンデッドにとって猛毒である。いや、猛毒以上の物質である。

『聖属性脆弱Lv100』という致命的な弱点を持っている私は、この少量の聖水でも消滅してしまう可能性があるのだ。なのに持っておけと? 全力でお断りしたい。


 ちなみに、ツバキは『聖水』という言葉を聞いた瞬間にちゃっかりと遠くに逃げている。賢い子だ。


「アンデッドに効果的だからこそマスターにお渡ししました。アル=アジフで撃ち放ち、遠くで聖水を散布すれば、マスターやツバキにも影響はありません」

「……それは確かに。まあ、切り札の一つや二つくらい持っておいたほうがいいか。しかし、うぅ……冷たい氷の刃が首筋に押し当てられている気分だ……」


 嫌な気分だが仕方がない。弾丸を壊さないよう気をつけよう。


「ルルイエ。隔壁を開けられるか?」

「可能です」


 ふむ。ならば破壊する必要はなさそうだ。


「ツバキ。覚悟はいいか?」

『ゴブッ!』

「うむ。いい返事だ。ではルルイエ。開けてくれ」

命令受諾(アクセプト)


 ルルイエの黒い瞳がチカチカと瞬いて気密隔壁の開閉システムに接続(アクセス)すると、微かな振動が発生し、ゆっくりと分厚い金属壁が開いていく。


 50年近く放置されていた割にはスムーズな開放だ。


 開いた隙間から漏れてくる、ねっとりと纏わりつくような重苦しい空気。湿っていて生暖かい。同時に、下からムワッと強烈な腐敗臭が立ち込める。


『ア゛ァ……』

『ンア゛ァ……』

『ガ……ンガッ……』


 気密隔壁が開く音にアンデッドたちは振り向き、そして私たちの存在に気づいた瞬間、一斉に襲いかかってくる。


 ゾンビ、スケルトン、ゴースト、リビングアーマーなどなど、アンデッドモンスターのオンパレードだ。


 こんな光景はホラー系やパニック系の映画で観たことがあるぞ。


 現実だと映画以上にグロテスクで生々しく、気色が悪い。特に腐敗したゾンビが。ドロッドロのネッチョネチョ。肉も内蔵も溶けかけて粘性質の体液が滴り落ちている。絶対に近寄りたくないし生理的に無理。ツバキと同じ種族だと思いたくない。


「ルルイエ、ツバキ。蹴散らすぞ」

命令受諾(アクセプト)

『ゴブ!』


 真っ先に前衛職のツバキが飛び出す。綺麗な足運びで駆け抜けると魔法鉄(アダマント)製の愛用の刀を振るう。

 紫がかった漆黒の斬撃が迸って一陣の風が吹いたかと思うと、ゾンビやスケルトンがあっさりと斬り裂かれた。


『ゴブブッ!』


 一人離れたツバキを狙って無数のアンデッドが押し寄せるものの、彼女を援護するのが後衛である私の役目だ。物理攻撃が効かない霊体系のモンスターを中心に魔弾を斉射して彼女の近くに寄せ付けない。

 斬っては撃ち、斬っては撃つ。それの繰り返し。

 同レベル帯のモンスターでも相手にならんな……と思っていると、


『ゴブ……?』


 斬り終えたツバキが何かを察知して、再び刀を構え直す。すぐに私もツバキが感じた違和感に気づいた。


「なるほど。アンデッドは斬ったり撃ち抜いたりしただけでは死なないのか」

『ゴブブー』


 倒れたアンデッドモンスターは死んでおらず、なおも私たちに襲いかかろうと切断された手足を動かして這いずっているのだ。


 スケルトンの私は、腕を外したり、斬られたり、欠損していても無事である。その特性が他のスケルトンに当てはまるのはむしろ当然のこと。そもそもアンデッドは一度死んでいるのだ。肉体を切断した程度では倒せないらしい。


「アンデッドモンスターは、肉体を燃やして灰にするか、(コア)を破壊するかしないと倒せません」

「我ながら面倒な体をしている」

『ゴブゴブゥー』


 魔法で広範囲攻撃をしたいところだが、未熟な私の腕ではツバキを巻き込んでしまう可能性があるから却下だ。ならば一つ一つ地道に(コア)を破壊していくしかない。


 私は頭や心臓や胸の骨に存在している小さな結晶に似た魔物の(コア)を破壊する。すると床を這っていたアンデッドが動きを止めた。

 やはりどの魔物も(コア)が弱点か……。


「ふと思ったが、私の(コア)はどこにある?」

「おや、ご存じなかったのですか? 裏側なので正面から見えないでしょうが、マスターの(コア)は肋骨の中央部分にありますよ。マスターの急所ですから気を付けてくださいね」


 なに? そんなところにあったのか。道理で見えないわけだ。今度確認しておこう。


「ツバキ、数が多いので油断は禁物ですよ」

『ゴブ。ゴ……ゴブゴブッ! ゴブゥー!』


 ルルイエの言葉に頷くツバキだったが、突如顔色を変えて大声で叫ぶ。彼女が慌てて指差していたのは、ルルイエの背後だ。


『カカカ……!』


 背筋が凍る不気味な笑い声が響き、ルルイエの背後に現れた身長3メートル近いボロボロのフードを被った骨の死神が、スラリと大鎌を振り上げる。

骸骨の処刑人(グリム・リーパー)』――素早さと大鎌の扱いに特化した、死神と恐れられる骸骨(スケルトン)の上位種だ。このモンスターに狙われたら死を覚悟する前に死ぬと言われている。

 そんな凶悪な魔物がルルイエを狙っているのだ!


『カカカッ……!』


 カタカタと骨を鳴らして笑った骸骨の処刑人(グリム・リーパー)が、私が視認できない速度でルルイエの首めがけて大鎌を振るった。

 鋭い刃が空気が斬り裂き、咄嗟に手を伸ばすツバキの表情が悲痛に歪み、そして――


『カ……?』


 それが骸骨の処刑人(グリム・リーパー)の最期の言葉だった。しかし、その声もドォンッという轟音に掻き消されてしまう。


 軽く振り上げられたルルイエの片手。そこから察するに、彼女が無造作に放った裏拳が大気を震わせ、骸骨の処刑人(グリム・リーパー)を跡形もなく消し去ったのだろう。


 まあ、そうなるだろうな。結果はわかっていた。骸骨の処刑人(グリム・リーパー)ごときがルルイエに敵うわけがないのだ。

 相変わらずのデタラメさである。あまりの強さに呆れを通り越して笑いが出てしまいそうだ。


「――上位種も混ざっていますからね。あまり前に出過ぎないよう気をつけなさい」


 何事もなかったかのようにルルイエは淡々とツバキに対する注意の言葉を締めくくった。

 ツバキは、ルルイエに手を伸ばしたままポカーンと口を開けて固まってしまっている。

 おっと。ツバキがルルイエの強さを目の当たりにするのは、ほぼ初めてのことだったか。それは驚いても仕方がない。


「ツバキよ。ルルイエを心配するだけ無駄だぞ。あの大鎌が首に直撃していても傷一つ付かなかったはずだ。逆に大鎌のほうが砕け散っていたかもしれん。ルルイエは、並大抵の攻撃では傷つかない桁外れの防御力と、一人でコロニーを制圧できるだけの圧倒的な戦闘力を持っているのだ」

『ゴブー……ゴブブ!』


『ルルイエ、すごい!』と、ツバキはルルイエを尊敬と憧れの眼差しでキラキラと見上げる。

 それを受けたルルイエは、


「どやぁ!」


 盛大に胸を張って得意満面のドヤ顔だ。

 女神の如き完璧な造形の絶世の美女が放つドヤ顔は、周囲をアンデッドが囲む緊迫した状況においてもハッと見惚れるほど美しく、それでいて何故か残念。超越的な美貌かつお手本のようなドヤ顔なのに、ここまで残念さを醸し出せるのはルルイエしかいないだろう。一切謙遜しないところもルルイエらしい。


「近くの上位種を適度に間引いてきます。見ていてくださいね、ツバキ! もっと褒めてもいいんですよ!」


 そう言いつつも目にも止まらぬ速さで移動したルルイエ。あちこちで轟音と衝撃が巻き起こる。

 ツバキに尊敬されたのが相当嬉しかったんだな……。


「感情がないと自称していた設定はどこへ行った?」

『ゴ、ゴブブ……』


 ルルイエのあまりのはっちゃけ具合にツバキと顔を見合わせて互いに苦笑する。すると、


「おぉぉおおおおおっ! エプロン様ぁ! ゾンビがエプロン様を着ているぅぅううううう! あちこち破れて血と体液でドロドロに汚れていることがエプロン様への冒涜かと一瞬脳裏システムをよぎりましたが、ゾンビが着ているならばこれは正しい着こなし方です! ほわぁ! ドロドロに汚れたエプロン様もゾンビに似合ってますよぉ……! しゅごい……! これは新たな発見……! エプロン様には無限の可能性が……! イア! イア! エプロン様っ!」


「『…………』」


 はぁ。まったく、何をやっているんだ。これだから残念なエプロン狂は。どんな状況でもエプロンが優先か……。


 ここは魔導テロで全滅する前は栄えていたコロニーである。エプロンを着ていた人物がゾンビ化していてもおかしくない。


 顔をだらしなく緩ませた彼女は、どこからともなく取り出したカメラで、エプロンを着ているゾンビをあらゆる角度から撮影し始めている。


 ツバキに褒められるために上位種のアンデッドを間引いていたことなど完全に忘れているに違いない。


「……ツバキ。ハリセンを持っていないか?」

『ゴブ』


 つい漏れ出た問いかけにツバキは頷き、小さな棒を腰から引き抜いたかと思うと、ポチッと棒につけられたボタンを押した。

 すると棒の先端から伸びていく折りたたまれた紙のハリセン。

 なるほど。ハリセンは紙の材質のナノマシンで構成されていたのか。これは好都合だ。


「ツバキ。ルルイエを一発叩いてやれ。どうせ傷一つつかないのだ。全力でやって構わん。私が許す」

『ゴブッ!』


『了解』と綺麗に敬礼したツバキは、床を蹴ってルルイエめがけて全力疾走。白髪をなびかせた彼女は、速度や体のバネ、腰のひねりを存分に利用して、カメラを構えて涎を垂らすルルイエの頭へと思いっきり全力でハリセンを振り抜く。


『ゴブブーッ!』


 ――スパァァンッ!


「あいたぁーっ!?」


 爽快感溢れる小気味良い音と叩かれて反射的に叫んだエプロン狂いの悲鳴が、アンデッドの巣窟と化した廃棄コロニー中に響き渡った。




お読みいただきありがとうございました。



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