おまけ01 拍手する 解読小説
たくさんの人たちがいる。
劇場の中で、見世物を見て楽しんでいる。
皆同じ反応で、誰もつまらなさそうな顔をしている人はいない。
劇が終わったら拍手をする。
そのぱちぱちという音は、合わせたかのように同じタイミング。
まるで不気味なその光景は、個というものが消え去ったかのように見えた。
それも当然だろう。
彼等、彼女達は個の消失を受け入れた者達なのだから。
かつて、一つの国に様々な人たちがいた。
彼らはそれぞれにたくさんの違いがあって、そのために分かり合い、理解するために苦心した。
けれど、やがて疲れてしまった。
人が人である限り、それらは永遠に終わらないと悟ったのだ。
だから、違いを違いと感じなくすればいいと、個を消滅させた。
統一された一つの意思をみんなで共有する事にしたのだ。
その結果、違いからくる争いはなくなった。
皆平和になり、同じ思いを共有し、同じ事を考える日々がやってきた。
劇場で過ごす彼らは、おそらく幸せなのだろう。
ダンス、音楽、ストーリー。
何を見て、聞いても。
まったく同じ顔で楽しそうにするのだろう。
彼等こそが出来の悪い見世物だ。
旅人の自分が、そう言っていくら哀れだと思っても、彼等、彼女等は皆同じような顔で否定するに違いない。