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オイラ六郎君

作者: 小田中田

絶世の美女の病気を治すために何度も浪人し医者を目指す男の、美しい愛と儚さの物語。

 僕は俗にいうFラン大学に通う大学1年生。といっても、今はとあるウイルスが流行しているため、週に1度しか大学に通っていない。だから僕はまだ実家暮らしをしている。大学までは特急列車で1時間半程度である。僕は、二浪もしたのに思い描いていた大学生活とここまでかけ離れたものになるとは想像していなかった。ただ、あの日もそんなことを思い、嘆きながら電車に乗ったが、あんな運命の出会いがあり、僕自身ののちの人生を全く別の方向にひっくり返してしまうことになるなんて思いもしなかった。

 週に1度の登校日。僕は朝7時の電車に乗るため、5時に起きた。もっと寝ていたい気持ちを抑え、支度をして家を出る。駅に着き、切符を買い、改札を抜ける。僕はいつも5号車の一番前の座席に座る。そうすれば、朝早いので近くに誰も座ってこない。しかし、この日は違った。相席ではなかったが、通路を挟んだ反対側にハットを深くかぶり、サングラスにマスク姿のいかにもお嬢様といったような、上品な女性が座った。その女性は一息つくとマスクとサングラスを外し、僕の方を向いた。僕は絶句した。今までに出会ったことのない、それはとても綺麗で軽々しく言葉にしてはいけないほどの、絶世の美女ともいえるような人だった。何故僕の方を向いたのか、それは時が経った今でも分からない。

 彼女は夏だというのに汗ひとつかかず、肌も透き通るように白かった。彼女は再びマスクをし、僕のすぐ隣に座った。彼女は僕の顔をじっと見つめ、初対面なのに僕にこう言った。「あなた、浪人生?」

僕は一瞬戸惑った。なぜ顔を見ただけでそんなことがわかるのか、不思議でたまらなかった。しかし、彼女は表情一つ変えずに、僕の目をまっすぐ見て、「私、病気なんです、治らないんです、一生。」と言った。立て続けに起こる出来事、言動に僕は少ない頭をフル回転させても理解に苦しんだ。

 僕は文系だ。高校生の頃からずっと文系一筋でやってきた。現に、僕が所属しているのは法学部だ。だが、彼女にそう伝えても、君は医者になるべきだと言って聞かない。彼女の直感らしい。僕は普段、非常に疑い深い性格をしているので、このようなことを信じはしないはずだが、彼女には浪人生であること(正確には仮面浪人生であること)を言い当てられてしまっているので、嘘だとは言い切れないのである。彼女は、「何年かかってもいい、病気を治して、あなたに治してほしいの」と真剣な眼差しを僕に向けた。僕は断り切れなかった。何浪でもしてやる、絶対に医者になって彼女を救ってその後は…なんて簡単に考えてしまった。僕は結果的にはまずまずだが、この選択はバカだったと後悔している。

 当然の結果だが、理系に変えて1、2年目はボロボロだった。高校時代、真面目に勉強していなかった自分自身を恨んだ。3、4年目は1次試験で85%程度とれるようになった。彼女とは頻繁にメールや電話をして、彼女の体調が良い日は実際に会って、近場の公園やビーチに息抜きに出かけた。僕は年々点数は上がってきていたが、五浪、六浪は当たり前と思い、勉強を続けていた。

 26歳の春、ついに僕に桜が咲いた。地方大学の医学部医学科に合格することができた。ここからが勝負だ、ここからまずは6年、大学で頑張ろうと決意した。彼女は親よりも旧知の友達よりも一番喜んでくれた。絶対に約束を守るからその時には付き合ってほしいと、交際の申し込みをした。すると彼女は笑いながら、「もう付き合っていると思ってた、じゃあ私の病気が治ったら結婚しようか」と、逆にそう言ってくれた。僕はとても彼女のために尽くそうと決めた。

 時は経ち、僕は33歳になった。彼女の病気を治そうととある医学研究所に就いた。しかし、一向にその方法も、同じ症状の患者も見つけられなかった。僕は最大限の努力をしたつもりだったが、約束を守れなかった。しかし、僕は彼女を海の見える綺麗なレストランに呼び出した。彼女に謝り、治してあげられないことを告げた。すると彼女はどういうわけか満面の笑みで僕にこう言った。「私の夢は叶ったよ」と。そして、どういう流れか、僕は彼女と結婚することになった。

 挙式当日、本当に美しい彼女と対面し、本当にこれでよかったのかと彼女に問うと、「最高の気分だよ」と答えてくれた。六浪をしてまでも医学部に入って医者になって良かったと、少しだけ思うことができた。式の中盤、誓いのキスの時、一瞬だけ彼女が寂しそうな顔をしたような気がしたが、2人で笑いあってキスをした。その瞬間彼女は倒れてしまった。急いで肩を揺らしても何も返事をしない、息もしていなかったが、最期まで彼女は微笑んでいたような気がした。

 彼女が突然旅立ってから49日が過ぎたころ、彼女の母親から手紙を渡された。そこには僕への感謝、わがままを言ってしまったことに対する謝罪、思い出などが綴られていた。彼女の本当の病名はいまだ不明だ。本当に不治の病だったのか、それもわからない。でも、彼女と過ごした時間は、生涯忘れることのできないかけがえのなく、大切なものだと自信をもって言える。あの日の摩訶不思議な出会いから何年たってもあの日のことは昨日のようにはっきりくっきりと蘇ってくる。彼女に出会えてよかった。彼女が示してくれた道を選んだことに後悔はせず、前を向いてどこまでも進んでいこうと決めた。そして、いつか彼女と再会したときに胸を張って「君が好きだ」ともう一度言えるように…。


彼女はいったい何者だったのか。なぜ彼の前に現れたのか。疑問は残るばかりである。

本当に存在したのか、彼の妄想だったのか。絶世の美女なんて、そう簡単に現れないよネ。造られた美女ならいっぱい見かけるけどネ。


小田中田

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