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第九話「夜の馬車移動」

「やべぇ、すっかり夜になっちまった。」


ダルナーとの筋トレ勝負にガチっていたら、辺りはすっかり暗くなっていた。


「こんな夜遅くに軍の施設に帰っても、誰も出迎えてくれないだろうな…」


そう呟きつつも俺は、西行きの馬車を見つけて乗り込む。


「おい少年、こんな夜遅くに西の方に用があるのか?今帝国西部は共和国に攻め込まれてて危ないぜ。」


「え、どういうことですか?」


「どうも何も、今週に入ってから共和国軍が急に攻勢に出てきたんだよ。しかもその数2000。指揮を取っているのは、共和国軍少将のデンベルグってやつらしいぜ。まあ、兄ちゃんも知らないって顔だな。」


「あ、ああ。流石に将軍の名前は学校で習ってないからな。はははは。」


違う。そんな訳はない。俺はデンベルグがまだ大佐だった頃に一度戦っている。やつの攻め込み方は敵ながらあっぱれだった。俺が防衛に苦戦した数少ない相手なのだ。


「嫌な予感がするな…」


「そうだな。そして、そんな危険地帯に少年が一人で向かうってのがまた怪しいな。しかもこんな夜に。なんか企んでるのか?」


「ち、違います!え、えっと、実は帝国軍で戦っているお父さんに会いに行くんです。その、久しぶりに拠点に帰還するって連絡が来たので…」


「おぉ、なるほどな。それで授業が終わってすぐに準備してきたわけか。納得だ。悪いな少年、変な疑いをかけて。実は最近、ガキに変装して油断させたところを襲うっていう盗賊がいてな。おじさんもピリピリしてたんだ。」


「そうだったんですね。確かに日没後の馬車は盗賊に狙われやすいですから、おじさんの気持ちも分かります。気にしないでください。」


「ああ、ありがとな。じゃあ、お父さん思いな少年のために、今回だけ特別に半額で乗せてやるよ。」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「ああ、気にするな。」


おじさんの「乗れよ」という声に押されて、俺は馬車の中に入る。


「しかし、俺もうまくはぐらかす能力が上がったなぁ。それもこれも、全部学園での生活あってだな。義務教育も捨てたもんじゃないぜ。」


独り言をぶつぶつと呟いていたら、あとからワサワサと人が乗ってきた。


まもなくして馬車が出発する。


「じゃ、西に向けて出発するぜ。乗客の皆さん、到着まで楽しんでくれよ。」


ガコンッ。パカラッパカラッ。


馬に引かれて大きな車輪のついた馬車が動き出す。


「ふわぁ〜。夜も遅いし、そろそろ寝るか。」


そういって俺は、しばしの仮眠を取ることにした。









「おいっ。お前たちは何だ!邪魔だからそこをどけ!」


「へぇ、旦那、そんな強気で出ていいんですかねえ。馬車は俺たちが完全に包囲してるんすよお?」


「くそっ。こんな大人数の盗賊に出くわすなんて、運が悪いぜ…」


外からさっきの御者のおじさんと、知らない声が聞こえてくる。


「え、どうしたの。」


「多分、俺ら盗賊に囲まれてるぞ。絶対にカーテンを開くんじゃねえぞ。」


馬車の中の乗客たちもざわめき始めている。


「んん、せっかく気持ちよく眠ってたのに…。まあ、夜に移動してたら盗賊との遭遇率も高いか。」


俺は眠気を押し殺してチラッとカーテンの隙間から外を覗く。


「おいっ、坊主!だからカーテンを開けるなといっただろ!!」


「あ、ごめんなさい。」


「ったく、これだから子供は嫌いなんだよ…」


俺は、巨漢のくせに一番焦った顔をしたおっさんに罵られた。いや、別にちょっと覗くくらいしてもいいだろ…。敵の偵察をしないと動くに動けないじゃん…。


「坊主は危ないから、馬車の真ん中の椅子で寝てるんだな。」


「え、なんで?」


「は?」


やべっ、つい本音が出ちまった。ああ、もういいか。


「だってこの馬車って囲まれてるんでしょ?で、相手は武器を持った盗賊がだいたい30人。こっちは一般人の乗客と御者のおじさんだけ。このまま傍観してても殺されるだけじゃない?」


「ほぅ、坊主。じゃあお前に何かできるのかよ。この状況をなっ。」


そういっておっさんは俺の胸ぐらを掴みに来た。


「障壁魔法展開」


グキッ。


「いてぇ!てめえ何をした!」


「別に首周りに障壁魔法を展開しただけだよ。」


「くそっ。チビがちょっと魔法を使えるとすぐつけあがる。だから子供はk」


「もういいよ。別にあんたの説教なんか聞きたくないんだ。この中だと一番戦えそうなあんたがその調子なんだ。誰も戦えはしないんでしょ?何とかしてくるから静かに待っててよね。」


ガチャ。そういって俺は一人で馬車のドアを開けた。


「ちょっ、おいガキ!死にてえのか!?」


おっさんの慌てた声を無視して外に出た俺は、バタンッと馬車の扉を締めてしまう。


「ほう。なんかガキが一人出てきたぞ。」


「やっちまいましょうよお頭ぁ」


「そうだそうだ!」


外に出た途端、盗賊たちの下品な雄叫びが耳に飛び込んできた。


「お、おい少年、なんで出てきたんだっ!」


御者のおじさんの焦った声も聞こえてきたが、今は無視だ。


「まったく、戦時中に内部で奪い合いとか。正直やめてほしいよね。俺たちが何を守ってるのか分からなくなるじゃん。ねえ、おじさんたち、そんな物騒な武器なんて捨てて森に帰ってくれない?」


「は、がははははははは!聞いたか野郎ども?このガキ俺たちに帰れだとよ。がははははは!」


「ほんとっすねお頭。あ〜おかしい。ガキだと自分の立場も理解できねえのか。」


「おい小僧、こんな危ないところに一人で出てきたからには覚悟はできてるんだろうな?」


「野郎ども、やっちまえ!」


「「「うおおおおおおおお!」」」


盗賊たちが一斉に俺と馬車の方をめがけて突撃してくる。


「さて、戦線復帰する前に軽く準備運動しますか。」


俺は義務教育にはない久しぶりの『戦闘』に少し心を踊らせていたのだった。

仕事が忙しくても、何とか続けます…!

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