第八話「週末の予定」
キーンコーンカーンコーン…
「それじゃあ、今週はここまでじゃよお。みんな、良い週末を過ごすんじゃぞぉ。」
「「はーい」」
トメヤ先生のホームルームが終わり、クラスメイトたちはいそいそと帰り支度を始めている。
「はあ〜、今週もようやく終わった〜!」
「そうだな。てかカノン、ほとんど授業寝てただけだろ。」
「えへへ…。バレた?」
「よだれ垂らして爆睡してたぞ。」
「えっ、嘘っ!?」
「うそだよ。」
「もうっ!何なのよレン!」
そういってキレイな頬を膨らませたカノンが、ペシッと俺を叩いてくる。
初日は学園というものにテンションが上がって気づかなかったが、カノンの顔立ちはとても整っている。小ぶりな鼻に、キリッとした目、さらに笑った時の顔が最高に可愛いとかでファンクラブもできたらしい。さすが貴族の令嬢だな。
まあ、人のことを遠慮なく叩いてくる暴れん坊だけど。地味に痛いんだよな…。てか、痛いと思う攻撃とか何年ぶりだろ。カノンって共和国の魔術師よりも強いってことじゃね…。
「誇っていいぞ、カノン。」
「は…?何を誇っていいのよ。なんか嫌味にしか聞こえないんだけど。」
「いや、なんでもない。気にするな。」
「そう。それよりもレンっ。週末は何か予定あるの?無ければあたしと街に出かけない?」
そう言ってカノンはズイッと顔を近づけてくる。相変わらずシャンプーのいい匂いがするな。
「あー、すまん。実は週末はちょっと予定があるんだ。だから街には行けないかな。ごめんなカノン。」
「あらそう。まあ分かったわ。でもレンはここらへんの街は詳しくないでしょ?今度あたしが案内してあげるから、覚悟しときなさい。」
「何を覚悟しておけばいいのか分からんが、了解した。確かにこの辺りは知らないからな。けっこう助かるよ。」
「そ、そう。まあちゃんと予定空けときなさいよね。じゃああたし帰るね。また来週、バイバイ!」
タッタッタッ。
そういってカノンはあっという間に教室からいなくなってしまった。なんか、よしっ。みたいな顔してたけど何だったんだろう…。まあいいか。
「それよりも俺はこれから西の前線まで戻らないと。レイナさんからは『長期休みだけでいいぞ〜』とか言われてるけど、実際心配だからなあ。ゼロ番隊は問題児しかいないし…。さっさと準備して街を出るか。」
そうつぶやいて、俺は荷造りのために学生寮に向かっていく。
「しかし学園って色んな施設があるからなのか、やたら広いんだよなあ。面倒だから転移魔法使うか。」
シュンッ…。
「よし着いた。やっぱ魔法ってこういう時のためにあるもんだよなあ。っと、ただいま〜。」
流石にもう見慣れたドアを開けて部屋に入ると、そこには絶賛腕立て中のダルナーがいた。
「おうレン。お前も、フンッ。帰ってきたのか。フンッ。せっかくの放課後なのに、遊ばなくていいのか?フンッ。」
「いやダルナー、喋るか鍛えるかどっちかにしてくれないか?」
俺は偶然にも二人部屋のルームメイトとなったダルナーにツッコミを入れる。てか、俺がカノンと喋っている間にさっさと帰ってたのか。
「そうだな、フンッ。俺の筋肉が、フンッ、十分に、フンッ、鍛えられなくなってしまうからな。フンッ。」
「もうツッコまないぞ。」
「ところでレン、フンッ。学園生活はどうだ、フンッ。初日からぶっ飛ばしてたが、フンッ、楽しいか?」
「ああ、正直思っていた以上だよ。学食や学生寮って初めてだからテンション上がるし、クラスメイトと切磋琢磨するのも楽しいからな。」
「そうか、フンッ。レンの地元の学校は、フンッ、学食や学生寮はなかったんだな、フンッ。それにレンの実力なら、フンッ、地元には張り合いのあるクラスメイトも、フンッ、いなかったんだろう?ふぅ。」
そういってダルナーは筋トレを終え、立ち上がった。
「だが安心しな!俺やカノンがいるからな、どこまでも互いに切磋琢磨してやるぜっ。」
「ああ、よろしく頼む。当然だが、俺も負けないぜ。」
そういって俺は、床に両手をつく。
「おお。レンもやるのか。ちなみに今日の俺はトータル200回を達成したぞ。」
「ほう。ならば俺は300回を目指そう。」
「そう簡単にできるかよ。」
そう意気込んで俺は腕立て伏せを始める。荷造りは後回しだ。今はダルナーとの戦いがある。
「フンッ。ところでダルナー、フンッ、部活動はどうするんだ、フンッ。」
「ああ、そうだな。すでにある部活動はあらかたチェックしたが、あまり魅力的とは言えないな。」
「そうか。実は俺も、フンッ、そう思っていた。部活動とは、フンッ、今あるやつから選ばないと、フンッ、いけないものでは、フンッ、ないんだろう?」
「もちろんだ。つまりレン、そういうことだな?」
「フンッ、ああ、もちろんだ、フンッ。」
「そうと決まれば仲間集めだ。あと3人いればクラブは新設できるからな。究極の筋肉を追求しようじゃないか。」
「フンッ、面白くなってきたな、フンッ。」
そういって俺たちは、残りの必要な3人をどうやって集めるか話し合い始めた。
ところで俺、西の戦線に行く準備のために部屋へ戻ってきたんじゃなかったっけ…?
「義務教育と軍の両立って結構難しいんだな…、フンッ、あと200回っ、フンッ。」
俺とダルナーの筋トレ勝負は続くのだった。