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第一話「義務教育の知らせ」

「こちらゼロ番隊レン、作戦を完了した。これより本部に帰還する。」


浮遊魔法も使わずに撤退していく共和国軍を空から眺めながら、俺は無線の先にいる人物に帰還の報告を入れる。

若干の間があってから、快活な女性の声で返答がきた。


「了解。おつかれ、レン。今回も派手にやったようだな。」


「派手ってなんですか。随分攻撃は我慢したほうですよ。」


「いや、斬り込み部隊のジャスが、いつも仕事を奪わないでほしいと嘆いているからな。どうせ今回もそんなもんだろうt」


「だから、今回は自重しましたって。」


彼女の発言が終わるのを待たずに即ツッコミを入れる。


「はっはっはっ。分かった分かった。じゃあ上層部には作戦は成功だったと伝えておくよ。」


「了解です。お願いします。」


そこで、プツッっという電子音とともに通信が切れる。


無線の先の彼女は、俺が所属する帝国軍の参謀本部長であるレイナさんだ。

17歳で軍に入隊し、いち早く頭角を表した彼女こそが、帝国軍に参謀本部を立ち上げた張本人だ。


そして、立ち上げ初期に参謀本部が自由に動かせる部隊が必要だとか言って上層部を論破し、俺がトップを務めるゼロ番隊を立ち上げた。

それ以来、毎回こき使われているのだが、まあ戦いは好きなので結構満足はしている。


「隊長、さっさと帰りましょう。」


物思いに耽ていたら、斬り込み部隊のジャスターから小言をもらった。


「ああ、悪いジャス。そうしよう。」


こいつは曲者揃いのゼロ番隊で唯一まともな部下だからな。こういう存在は本当に貴重だ。


「そう言えば、今日でゼロ番隊が結成されてから丁度3年じゃないですかね。」


「え、もうそんなに経つのか。案外あっという間だったな。」


「そうっすねぇ。てか、最初の頃とか懐かしいなあ。まさか、異動先の部隊の隊長が、12歳になったばかりの子供とか信じられませんでしたよ。」


「確かにそれは言えてるな。自分でも思うよ。」


そう。俺は12歳の誕生日を迎えた日に、参謀本部直轄特殊部隊、通称ゼロ番隊の隊長に任命された。他ならぬレイナさんによって。


当初、軍の上層部は新設の参謀本部に直轄の軍隊ができるのを嫌っていた。

しかし、既存部隊の問題児をまとめて放り込めるという有用性に気づき態度を一変させたのだ。


こうして、問題児集団のゼロ番隊が結成されたのだが、ジャスターは唯一レイナさんが気を利かせて配置してくれた常識人である。


そのジャスターと、問題児集団である俺の部下たちを眺めながら話を続ける。


「結成当初はあいつらにめちゃくちゃ馬鹿にされたなあ。まあ、今となってはいい思い出だけど。」


「まったく、帝国の守護神に対して喧嘩ふっかけるとか、どんだけ考えなしな連中なんですかね…」


「ま、それくらいの戦闘マニアの方が、俺は好きだけどね。」


「隊長も結構な戦闘狂ですからね。」


「まあ、否定はしないよ。」


そう二人で話しているうちに、空中を駆ける部下たちの姿がどんどん小さくなる。


あいつら、俺が撤退の無線入れたら速攻で帰り支度始めたからな。

上司を待つとか、そういう気遣いができないやつはあとでシバくか。


「ところで隊長。今日がゼロ番隊結成の3周年ってことは、隊長の15歳の誕生日ってことじゃないですか?」


「ああ、そう言えばそうだな。すっかり忘れていたよ。祝ってくれる親もいないし、レイナさんはそういうの覚えてないからな。」


「いや、それは自虐ですか?ちょっと返しづらいのでやめてください。とりあえず、おめでとうございます。」


「ははっ。悪い悪い。ありがとう。お前だけだよ、祝ってくれるの。」


「まあ、もう少し周囲に誕生日アピールしてもいいんじゃないですかね。ってそういえば15歳ってことは隊長も学園に行くんですか?」


「え、学園?あれでしょ、帝国語とか算術とか習う場所でしょ?あんなの戦争が始まってから、別に通わなくても良くなったじゃん。」


「いや、そっちじゃなくて義務教育の方ですよ。優秀な魔術士を育成するために、15歳になったらみんな通うやつの。」


「は、なにそれ。徴兵制ってこと?それって今更俺が行く必要ある?」


「だから、義務教育です。まあ確かに今更感はありますが、義務なんで行く必要はあるんじゃないですかね、さすがに。てか、普通常識じゃないですか?レイナさんとか他の人から教えてもらってないんですか?」


「いやあ、軍に同い年の友達とかいるわけないしさ、レイナさん戦闘以外のことは超テキトーじゃん?義務教育の存在とか知るわけないよね。うん。」


「まじっすか…。ちょっと信じらんないですけど、まあせっかく同い年の友達とかできそうですし、楽しみですね。」


「え、それ本当に俺も行かないといけないの?学校って平日5日間も行くんだよね?戦線どうやって維持すればいいの?」


「まあ、休日の2日間で挽回するんじゃないですか?」


「ですか?じゃねーよ。できるわけないだろ。俺は行かないからな。そんな義務教育の学園なんか。」


「不良ですか。やっぱゼロ番隊の隊長にふさわしい問題児っぷりですね。」


「うるせー。だいたい俺がいなくて、一番困るのジャス、お前だからな?どうやってあの問題児まとめるの?どうやって今の戦線維持すんの?」


「そんなの、教室から隊長が指示飛ばしてくれればいいんすよ。」


「なんでだよ。俺も戦線に出たいよ。」


「まあ、そこは義務なんで。」


「なんでだよおおおおおお」


こうして本部に帰還後、俺はレイナさんから「わりぃ、忘れてた。」という簡潔な一言と共に、義務教育の案内封書を受け取ることとなった。


言うまでもなく、案内には『15歳となったあなたは学園に通い、優秀な魔術師になるための訓練を受ける義務があります』という記載があったのだった。

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