「大切なひと」
初めての投稿です!この間夢に出てきたことを書き出してみました。
この国では、生まれながらにして守護霊を操る人間が存在する。
形は主人によってさまざまで、ちなみに俺は犬の形をしている。
守護霊は守護霊を持つもの以外に見ることはできず、守護霊持ちはきみ悪いものとして嫌われていた。
俺のご主人様もその1人で、守護霊を、俺を含めて5体所有しているという特殊ケースだ。
国のあちこちを逃げ回っていたが、幼い頃にここの殺し屋のボスのおっさんに助けられてから、諜報員として雇われている。
まあご主人様はこの職一番似合わなさそうな優しい姉さんで、俺たちを使った情報集めを主な仕事としていた。
でもそんな安息はこの職についている限りあるはずもなかったんだ。
「…殺してこい」
ある日の朝のことだった。
姉さんは一瞬固まって、俺たちを見た。鼻と目がきく俺たちは尾行がせいぜいの仕事だった。
人の命に触れるような仕事はこれが初めてだ。
「…」
「いつも通りやってくれるな?」
「…かしこまりました」
この時俺たちを見た姉さんは無理に俺たちを心配させないように笑った。
でも、今思えばこれは違う意味の笑みだったのかもしれない。
「ターゲット発見、尾行を続けて」
姉さんはテレパシーで俺たちに指示する。今までのキャリアもあり、いつも通り、いやそれ以上に上手くいっていた。
尾行を始めて、一周間が経った頃だった。俺たちは少し休憩のために、ある広場の噴水のところに座っていた。
「私あなたたちに殺しになんて関わらせたくない」
姉さんは言った。
「嫌だったら言ってね」
「姉さんが生まれた時から俺たちは姉さんの物だよ。姉さんと一緒じゃなきゃ、存在の意味なんかない。そんな感情は捨てればいい。」
俺は言った。
姉さんはそこで今までで一番傷ついた顔をした。
なんでそんな顔をする?
俺は無意識に姉さんの顔に手を伸ばしたけど、姉さんに届くことはなかった。一瞬で表情が消えたと思ったらグラリと前に倒れたのだ。
「姉さん!」俺たちは叫んだ。背中から血が流れる。みんなで一生懸命小さな手を傷口に押し当て、止血を試みるが、一向に止まる気配がない。傷口が大きすぎる。
刺客か!?気配が全くしなかった!
焦りながら、今までの尾行を反復する。これまで、上手くいっていたはずだ、いつも以上に。いつも以上に?
ボスが気配を消すのに一番長けた姉さんに初めて殺しを依頼してくる。その時点でそんなこと自体あり得ないと分かっていたはずだった。いや、姉さんのさっきの顔…
もしかしたら姉さんは分かっていたのかもしれない。今回は俺たちが敵う相手ではないと。
止まれ、止まれ!
俺たちの手は血で染まり続ける。するとふと俺の顔に触れる手があった。
「泣かないで」
優しい声だった。姉さんが薄い呼吸の中で言う。泣く?この俺が?
傷口を抑える手に頬から慕った涙が零れ落ちる。暗殺に通じる職に関わるようになってから
感情など捨てていたはずなのに。
「ごめん、ごめんね。私が死んでも仲間がいる。一人にならないで。みんなで頑張って生きて。」
「姉さん!僕たちは姉さんがいれば何もいらない。姉さんがいないなら生きている意味なんかないよ!」
「そんなこと言っちゃだめ!!」
姉さんが初めて大きな声を出した。目に力が入り、血を流しながらもその奥には光が見えている。
「生きて。私の大切な…」姉さんはいつも通り優しく笑った。
俺の頬からふっと落ちた手を握る。もう姉さんの目には俺たちは映っていなかった。姉さん、姉さん、と周りから悲痛が聞こえる。俺も嗚咽が止まらなかった。ああ…これが大切と言う気持ちなのだろうか。そして考えが巡る。
あの時の無理した笑みは泣きそうなのを堪えようとしていたのかもしれない、俺たちのことを思って。
守護霊は主人が死んでも余生を現世で生きる。
その後のことだが、俺たちは姉さんを殺した一味を最初追ったが、結局他の一味に潰された。
あの職での姉さんとの時間は本当に幸せなものだったんだと思い知った。
俺たちは姉さんのために棺を作り、故郷に埋めた。
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守護霊の逸話が存在するある国の一端に小さな墓がある。その墓には「大切な人」と刻まれていたが、誰が書いたのかは分からない。
その周りには互いに寄り添う様に美しく色とりどりに輝く石が五つ置かれているそうだ。
Fin.
素人すぎて申し訳ないです!ありがとうございました!