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プロローグ

 アヴァンドラ王国の東部に位置するシャルノビア領の領都セレビアの領主邸では、その地を治める辺境伯の当主ジゼノ・ファン・シャルノビアが生死の境を彷徨っていた。


 領主邸にあるジゼノの寝室には、苦しみ耐えるように魘されているジゼノ。傍らには彼の看病をしている主治医と執事、三人の侍女が同席していた。


「旦那様、お目覚めになられたのですね」


 ベッドに横たわった状態で目を覚ましたジゼノに、執事が気付き声をかける。


「セルジュか。私は寝ていたのだな。だが、まだ眠気が残っているようだ」

「シーラ、奥様とシルヴァノン坊ちゃんを呼んでくれ」


 執事が一人のメイドにそう伝えて、そのメイドは頷き寝室から急いで出ていった。


「セルジュ。お前にはこれからも迷惑をかけるな」

「何をおっしゃいますか。私を始めとする使用人一同、皆シャルノビア家に仕えることに喜びを感じているのです」


「シヴァにはこれから大変な目に合わせてしまうな、病弱なミリアには領主としての仕事をさせるのは酷だ。セルジュ。悪いがシヴァの支えとなってほしい」


「お気を確かに、もうすぐ奥様と坊ちゃんがお越しになります」


 執事であるセルジュはジゼノの意識を保たせるために声をかけ続け、主治医の診療を二人の侍女が手伝っている。


「私の人生も今日で終わりか」


「旦那様、大丈夫です。必ず良くなります。まだ、この地には貴方様の力が必要なのです。ですから、どうか諦めないで下さい」


 ジゼノはセルジュの言葉から領主として、そして、主として必要とされていることを実感し、それを嬉しく思い、できる限りの笑顔を作る。


「フフ、無茶を言うな、自分の命が残り僅かなのは自分でよくわかるさ」


「そんなことを仰らないで下さい」


「セルジュ。親友としてお前に伝言を頼む。—————」


「しかと承りました」


 自分の無力さから悔し涙を流しながら、セルジュはそう口にした。


 暫くしてから、二人の侍女に支えられながら大きなおなかを抱えながら一人の女性が寝室に入ってきた。


 彼女が来たことを確認したセルジュはジゼノから距離を取り、寝台の傍らに椅子を用意して彼女に座るように促す。


 女性は促されるまま椅子に座り、ジゼノの手を両手で握って声をかける。


「貴方、目が覚めたのですね」


「カレラか、君と子供たちを置いていく私のことをどうか許してほしい。君を心から愛しているよ」


「ええ、知っております。私も愛しています」


「私の人生はとても幸せだ。すまないが少し眠ることにするよ」


 ジゼノはゆっくりと瞼を閉ざし深い眠りについた。そして、その瞼は二度と開くことはなかった。


 ジゼノが息を引き取ったのを確認し、主治医はそのことをその場にいた皆に伝え、ジゼノの妻であるカレリアラに向き直り頭を下げた。


「できる限りの手は出し尽くしました。御夫人。私の力が及ばず、領主様の命をつなぎとめることができませんでした。申し訳ありません」


「いいえ、先生。先生はよくやってくれました。気にしないでください」


 カレリアラは零れる寸前の涙を堪えながら言葉を口にした。


 その直後、扉が開かれ一人の少年が現れた。


「失礼します。シルヴァノン、只今参りました」


 室内にいた者は顔を伏せており、少年はその状況から大体のこと察した。


 セルジュはシルヴァノンに近づき、腰を落ちして目線を合わせる。


「坊ちゃま、申し上げ難いのですが・・・」


 少しの間をおいてセルジュはその言葉口にした。


「ジゼノ様が逝去されました」


「そうか」


 シルヴァノンはその言葉を聞き、瞼をゆっくりと閉ざし、その場を去った。


 この日、アヴァンドラ王国は海と山、そして森の国境を守るシャルノビア領の領主である辺境伯が不在となった。


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