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オーバーラップ〜外伝〜  作者: 杏 烏龍
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まちびと

 日差しが強くなったとはいえ、まだ朝晩は肌寒い五月のある日。北条剣二は学校中庭の植え込みのヘリに腰をかけていた。

「ったく! 竜太はん、いつも時間にルーズやなぁ。いつもうちが待ちぼうけや」

 練習の後ここで同級生の中村竜太と待ち合わせをしているが、彼はまだ来ていないようだ。すぅっと日暮れの風が剣二を包み込みすり抜ける。少し身体が冷えてきた。

「うーー、今日は冷えるな……。待ち合わせが竜太はんやから冷えるんやろうな。これがかえではんとの待ち合わせやったら……、冷えるのも気にしないのになぁ」

「北・条・く・ん!!」

 剣二の視界にいきなり女の子の顔が飛び込んできた。それも頭の上から。

「うわっと!! かえではん! いきなりなんで!!」

 同級生の西園寺かえでが植え込みに座っている剣二を見つけて、顔をいきなりのぞき込んできたのだ。

 あわてた剣二はもんどり打って植え込みに落ちてしまった。

 かえでは身長が高いこととすこし近視ぎみなこともあって、顔をのぞき込むよう見るくせがある。そのしぐさが一部のかえでファンにはたまらないらしい。まして、剣二はちょうど想いを寄せているかえでのことを考えていた矢先にいきなり彼女が眼前に登場したものだから、うろたえないはずがない。

「もう、北条くんどうしたの、そんなに驚いて」

「いや……その……考え事していたら、いきなりかえではんが出てくるから」

「ごめん、ごめん、驚かせちゃって」

 ペロッと舌を出し両手を合わせて拝みポーズであやまるかえで。

(くぅ〜!! かえではん……、かわいすぎる!!)剣二のドキドキがまた加速する。

 剣二のそんな気持ちを気づきもしないかえでは、ちょこんと剣二の横に座った。

「北条くん竜太待ってるんでしょ。いつも人を待たせるのよねアイツは。いいわ、いっしょに待っててあげるね」

(うををを! 今日はなんていい日なんだ! 今日ばかりは竜太はんに感謝やわ。もっと遅れてもいいで、今日に限っては。ああっかえではんと二人きりなんて初めてのことやないやろか)心の中で喜ぶ剣二。しかしここで何を話ししていいかわからなかった。しばらく二人の間に沈黙が訪れた。

「北条くんって……」

「かえではんって……」

 二人同時に話をはじめる。

「あっゴメン」

 同時に二人ともあやまる。会話がぎこちない二人。

「かえではんから」

 剣二が譲ってみる。

「じゃあ、北条くんに聞きたいことがあるの」

「えっ? 聞きたいことって??」

 ドキリとする剣二。はやる心を抑えつつ、

「なんでもきいてや、うちでよかったら(ふっ、決まった)」

「じゃあ、ずばり!剣道のこと教えて!」

「へっ?」

「私、よく竜太と剣道の話するんだけど、あんまりわからなくて……。竜太って、あれでいてあいつ人見知りが激しいのよね。剣道の男友達もあまりいないようだし、でも北条くんにだけは、ほらライバルって言うか、結構うれしそうに話をしているのを見ているのよね。それで、せっかく同じ高校に通うことになったから、北条くんに聞こうと思ったの。私ってなぎなた一筋でしょう。だから剣道のことが、わかっているようであんまりわからなくて……。竜太にいつも聞くんだけど、それでもあんまりわからなくて。だから色々と勉強しようと思っているの。少しでも竜太の力になれたらと思って」

 一生懸命に話すかえでを見て剣二は、すこしがっかりしつつも、かえでの気持ちに心を打たれた。

(かえではん。やさしいなぁ。少しでも竜太はんのためにと思っているんや。よし! 決めた。うちはかえではんが喜ぶのやったら)

「それじゃあ、かえではん、今一番何が聞きたい?」

「じゃあ、竜太の弱点!」

「えっ? 弱点!?」

「そう、北条くんから見たあいつの弱点。これがわかっていると私も武道をたしなむ者だからそれなりにアドバイスできると思うの」

「弱点ねぇ……。竜太はん弱点だらけやし、でもそれをカバーする精神力は強いなぁ。わかった、明日までにノートにまとめとくわ」

「ありがとう北条くん。今度ジュースおごるね」

 ニコッと微笑むかえで。その表情を見た剣二はまた胸が高鳴った。

(かえではん……。いい笑顔や。でもやっぱり、かえではんには……)

「じゃあ次は北条くんよ」

「えっ?」

「だって、先に私って北条くんが譲ってくれたじゃない。だから次は北条くん」

「……いや、かんにん。何を話するのか忘れてしもうた」


 剣二は忘れたふりをした。いろいろとかえでの事を聞きたかったが、あえてやめた。それが一番だと思ったから……。

 二人の頬に風が当たる。日もかなり沈んできた。すると校舎から竜太が走ってきた。

「北条! わるい、悪い。いつも待たせてゴメンな! 今日も先輩にしぼられて……。ん? かえでも一緒か?」

「一緒で悪い、せっかく待っててあげたのにさ、なによその言い草は! いこっ北条くん」

 剣二の腕をもってスタスタ校門に歩いていくかえで。剣二はいきなり腕をもたれびっくり半分、嬉しさ半分の絵も言われぬ顔をしてただかえでに引っ張られていった。

「ちょっ! かえで! 北条! 待てよ!」

 竜太は慌てて二人を追いかける。

「北条くん逃げるわよ! 竜太を走らせてやるから!」

「OK! じゃあ次のバス停までロードワークということで、ほなっ、お先に!」

「ちょっ! 何で逃げるんだよ二人とも!」

「あはは、竜太は足が遅いからね、ここまでおいで〜だよ」

「竜太はん! はよ来んとバスに間に合いまへんで〜」

 三人は桜並木を走って降りていった。


 今日はちょっぴり嬉しく、ちょっぴり哀しいけれど、心が暖かくなった剣二だった。

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