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第9話 所長室へ 2

「そんな訳で所長室に着きましたーっと」


「この時間帯……普段ならまだ昼寝中ですけど、所長の奴は起きてるんですかね?」


 さっきの話をしたのもあるのか、カティアの所長に対する当たりがかなり強い。本当にラウスの事が嫌いらしい。


「さっき俺が起こしたばかりだからどうだろう。ま、寝てたらまた起こせばいいでしょ」


 カティアにそう答えながら、俺はコンコンと所長室の扉をノックする。


「っ……! だ、誰だ!」


 すると、すぐにラウス所長の声が部屋の中から返ってきた。どうやら二度寝はしていなかったらしい。


「第七魔術研究室でーす。失礼しまーす」


 名乗ると同時にドアを開けて所長室の中に入ると、所長は部屋の隅にあるベッドではなく自らのデスクに座っていた。

 とても珍しい光景ではあったが、デスクの上には書類などはなく、相変わらず仕事をしている形跡は見られなかった。


「こ、今度は何の用だディラルト。部下を連れて来たところでお前達のクビは変わらないぞ!」


 敵意剥き出しでラウスは俺の事を指差しながら睨み付けてくる。


「センパイ、あいつなんかめっちゃ怒ってません? 何やったんです?」


「特に何もやってないよ? ノックしても反応なかったから軽い電撃で起こしてあげたけどさ」


「絶対にそれのせいじゃないですか……。それより室長。さっさと用件を済ませちゃいましょうよ」


 俺の背中にぴったりくっつくように隠れているカティアとリサラが、俺の服をくいくいっと引っ張りながら話し掛けてくる。


 2人の言う通りだ。ここはさっさと用を済ませて、この研究所からおさらばしちゃおう。


「今回はクビの件で文句を言いに来たんじゃなくて、ここの入館証を返却しに来たんですよ。ほら、俺達は明日でクビじゃないですかー」


 部屋の前で預かっておいた2人の入館証も合わせて、右手に持っていた3人分の入館証をひらひらと所長に見せる。


「ならさっさとそれを置いてこの部屋から……いや、この研究所から出て行け! 貴様の顔なんかこっちは見たくもないんだよ!」


「俺もそうしたいんですけど、所長にもう1つ返却しないといけない物があるんですよねー」


 ラウスの敵意のこもった鋭い視線を受け流しながら、俺は前に歩いていきラウスの元へ向かう。


「よい、しょっと……」


 そして、俺の足元に展開したストレージから書類を取り出していき、それを何も置かれていなかったラウスのデスクの上にどんどん積み上げていった。


「な、何だこの書類の山は……! 何処からもってきた!」


「これは俺達第七が他の研究室から押し付けられていた仕事です。これを全部他の研究室に引き継いでもらおうと思いまして」


 積み上がった書類の山を前にして、ポカンと目を丸くしているラウスに俺は説明していく。


「ふ、ふざけるな! どうしてお前達の仕事を他の研究室で引き継がなきゃならない! それは仕事を終わらせていないお前達の責任だろう!」


 ハッと我に返ったようにラウスがバンッとデスクを叩いて立ち上がり、俺の事を強く指差した。

 すると、後ろで控えていたはずのカティアとリサラが俺の隣にやって来て口を開いた。


「突然私達の研究室を解散させて、一方的にクビだって命令しておいてよくそんな事が言えますねー。毎日何もしないで昼寝しているだけなのに。毎日昼寝出来るくらい暇なら、別に仕事を任されたって何の問題もないですよね?」


「適当な理由をつけて毎回私達に押し付けてましたが、これらの仕事はそもそも他の研究室が本来やるべきだった仕事ですよね? それに、引き継げないとも貴方は仰っていましたが、仕事の依頼主との最初の打ち合わせは来週以降ですから、相手方にも担当が私達から変わったことなどを連絡する事は全くありませんし、他の研究室に引き継げない理由もこれといってないですよね?」


 カティアとリサラは蔑むような冷たい表情を浮かべながら、ラウスに向けて威圧感と共にトゲのある言葉を放つ。


「なっ、ぐ、くうっ……!」


 2人の言葉にラウスは時折呻くような声を出しながら後退り、ギリギリと悔しそうに歯をくいしばっていた。

 俺はラウスの意識をこちらに向けるように、ラウスのデスクをバンと強く叩いた。


「所長達なら別にこの程度の仕事なんか簡単なんでしょう? 俺達第七に出来た事が出来ないわけがないとか、第七よりももっと優れたものが出来るって、さっきあんなに偉そ……自信満々に言ってたじゃないですか。それとも、あれって嘘だったんですか?」


「っ……! 嘘な訳ないだろう!お前のような平民に出来た事が俺達貴族に出来ないはずがないだろう!」


「それを聞いて安心しましたよ。それじゃ、今度こそ俺達は失礼しまーす」


 こちらを睨みつけているラウスにそう言葉を告げて、俺達は所長室を後にしたのだった。

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