第74話 難題
「「………………」」
隣の部屋に案内され、問題の魔道具の惨状を目の当たりにした俺、カティア、リサラの3人は、言葉が何も出てこなくて石のように固まってしまっていた。
「え、えっと……。一応質問させて欲しいのですが、これは一体何があったのでしょうか……?」
そんな固まった俺達の代わりに、フィリアがかなり困惑した様子で、ザイール達に大型魔道具が壊れてしまった経緯を尋ねた。
「あ、あー、いや、これはだな……。その、なんだ……。お、おい、ジュナ。お前がこれの経緯を説明しろ」
「えっ、ええっ!? どうしてここで私に説明を押し付けるんですか!」
言葉に悩んでいたザイールから、魔道具の説明を丸投げされたジュナさんが抗議の声を上げ、まるで手刀か何かを振り下ろしたように、操作部分が大きく凹んでしまっている魔道具を指差した。
そして、ジュナさんはそのまま言葉を続けていく。
「この魔道具を全力で殴ったのはギルドマスターなんですから、ここはギルドマスターの口から説明してくださいよ〜!」
「おい、ちょっと待て。俺だって全力では殴ってねえよ! だいたい、あれはジュナが「何度叩いても魔道具が動かないです〜!」って俺に泣きついてきたからだろ!? 俺が叩く前からこの魔道具は壊れてたかもしれねえんだから、ジュナが説明したって別にいいだろうが!」
「何でですかー! 全然良くないですよー!」
俺達の存在を忘れて、説明の押し付け合いを始めるザイールとジュナさん。
「………………」
そのおかげでなんとか冷静さを取り戻す事は出来たけど、正直俺は今すぐここから帰りたい気持ちで一杯になっていた。
この町に来てから数えきれないくらいの魔道具を修理して来たけど、ここまで酷い壊れ方をした魔道具の修理は経験したことがなかったからだ。
……そもそも、魔道具が動かないから叩くとか殴るって何なんだ。
一体どんなバカ力を加えたら、金属製の魔道具があんなに凹むんだと、目の前で押し付け合いを続けている2人に問いたかった。
あぁ、ホントどうやってこの魔道具を修理しよう……。もう既に頭が痛い……。
「……センパイ。どーするんですか、あの魔道具……」
軽く現実逃避でもしようかと考えていると、げんなりとした表情を浮かべたカティアが壊れた魔道具を指差しながら話しかけてきた。
「どーするんですかって俺に聞かれても、正直言ってかなり答えに困るんだけど……。リサラは何か解決策とか浮かんだー?」
「室長が答えに困ってるのに、私なんかに解決策が浮かんでるわけないじゃないですか。本当にどうするんですか、この依頼……」
助けを求めるように、難しい表情を浮かべていたリサラに話を振ってみたが、当然のようにあまり良い返事は帰って来なかった。
「まぁ、そうだよねぇ……」
「「はぁ…………」」
俺達3人は揃って大きな溜め息を吐いて、ガックリと肩を落とした。
すると、そんな俺達の様子に気付いたのか、フィリアが声を掛けてきた。
「えっと、3人揃って大きな溜め息を吐いてどうしたの……?」
「どうしたもこうしたも……。あんな惨状の魔道具を見せられたんだから、溜め息の1つや2つぐらい吐きたくなるだろ……」
魔道具を力無く指差す俺の言葉に、カティアとリサラの2人も無言で何度も頷く。
その様子を見て、フィリアも状況を理解してきたのか、表情を曇らせ始めた。
「も、もしかして……。ディーくん達でもあの魔道具の修理は難しいの……?」
「あぁ、難しい。……っていうか、あれを元通りに修理するのは俺達でも無理だぞ。大型魔道具の軽い傷なら俺達でも誤魔化せるけど、ここまで派手に壊れてると白銀級以上の鍛治師に部品を作り直してもらわないと、修理した魔道具がちゃんと動くのかは保証出来ないからな」
フィリアの方に向き直りながら、俺は正直に現在の状況を伝える。
因みに、この町には3人の鍛治師が居るのだが、全員白銀級より低級の赤銅級しかいない。
だからこそ、この現状に頭を抱えたくなっているのだが……。
「い、今の話って本当なんですかディラルトさん!? この魔道具の修理は出来ないんですか! 私はこれからずっと依頼の処理や冒険者登録などを手書きでしていかないとダメなんですか……!?」
すると、俺の言葉を聞いたジュナさんが、ザイールとの説明の押し付け合いを中断して、大粒の涙を目に浮かべながら俺の方に詰め寄ってきた。
「お、落ち着いてくださいジュナさん。俺が言ったのは、この魔道具を元通りに修理するのは無理ってだけですから……」
俺はそんなジュナさんをなんとか宥めながら、先程の発言の説明する。
「……という事は、あの魔道具の修理は出来るって事なんですか?」
「そこはこれからあの魔道具を色々調べて、試行錯誤してみないと正直分からな……い……」
と、ここまで言葉を続けて、ジュナさんの目に再び大粒の涙が浮かび始めていることに気付いた。
「だ、だ、大丈夫ですから……! ちゃんと魔道具の修理はやりますから、ジュナさんもそんなに泣かないでくださいよ!」
「ぐすっ、ぐす、ひぐっ……! 本当ですか、ディラルトさん……?」
「え、えぇ! もう大船に乗ったつもりで俺達に任せてください!」
俺は今にも泣き出しそうなジュナさんをなんとか宥めながら、ドンと胸を叩いた。
流石に涙目の女性の頼みを無視できるほど、俺の心は鬼にはなれなかった。
あぁ、でも……。勢いで任せてくださいって言っちゃったけど、マジでこれからどうしよう……。




