第73話 冒険者ギルドの依頼
訓練場から場所は変わって、俺達は冒険者ギルドの3階にあるギルドマスターの部屋に案内された。
来客用のソファに俺達は横一列に座り、対面のソファにギルドマスターと受付嬢の2人が座る。
「さてと、早速依頼の説明と行きたいが、その前に軽く自己紹介くらいはしとくか。俺の名前はザイール・アブレイユ。このギルドのマスターをやっている元Aランクの冒険者だ。で、こっちのは受付嬢を任せている……」
「ジュナ・アルエットです。皆様よろしくお願いします!」
ギルドマスターのザイールに続いて、受付嬢のジュナさんが俺達に頭を下げた。
「初めまして、私は魔術師のフィリア・マインツです。こちらの3人は私の部下であるディラルト、リサラ、カティアです」
「どうも。……いでっ! でぃ、ディラルトです……」
窓の外を眺めながらぶっきらぼうにザイール達に返事をしたら、隣に座っているリサラから無言でわき腹に肘打ちが飛んできた。
態度が悪かったと少しだけ反省をしつつ、名前を名乗る。流石に2度目の肘打ちは飛んでこなかった。
「リサラ・グラスフィールです。よろしくお願いします」
「私はカティア。よろしくねー」
向こうの自己紹介を受けて、フィリアに紹介されるような形でこちらも簡単な自己紹介を無事に済ませて、早速本題の依頼の話になった。
「今回の依頼の話なのですが、こちらのギルドで使用している魔道具が壊れてしまい、その魔道具の修理を私達にお願いしたいという話でいいんですよね?」
「あぁ、そうだ。オベールの奴から少しは聞いてると思うが、ギルドの業務で使用してた魔道具が最近遂にガタが来たっつうか……、とうとう動かなくなっちまってな……」
「最近遂に……って事は、魔道具の調子が悪いのは結構前から分かってたって感じだよね? 調子が悪いのが分かってたのなら、完全に壊れる前に誰かに修理とかして貰えば良かったんじゃないの?」
カティアの問い掛けに対して、ザイールは肩を落としながら首を横に振った。
「王都から来たお前らには分からないかもしれないが、その魔道具を修理やら点検やら出来るような技術を持った奴がこの町には誰も居なかったんだよ」
残念な事になと言葉を付け加え、ザイールは依然として話を続ける。
「優秀な奴は王都やオルファンみてえな人の集まる都市や他の国に行っちまうし、そういった優秀な奴は態々こんな地方の町に出向いてはくれないからな」
「じゃあ、どうして私達に依頼をしようと思ったの?」
「魔道具をどうするか悩んでた所で、ジュナの奴がお前らの評判を町で聞いてきたみたいでな。このまま悩んでいるよりかは、評判を信じてお前達に修理の依頼をしてみようって話になったんだよ」
「私達の、評判ですか……?」
ザイールの言葉にフィリアだけでなく、俺達3人も揃って顔を見合わせた。
すると、ザイールの隣に座るジュナさんが両手をパンと合わせながら口を開いた。
「ご存知無かったんですか? 最近、この町の人達の間で話題になってますよ。前に王都から来た偉そうな奴らと違って、皆さんに任せたらどんな魔道具でもあっという間に修理しちゃう凄腕の魔術師だって……!」
「そ、そうだったんですか……」
何やら知らぬ間に俺達はこの町で話題になっていたらしい。
そういえば、最近は帰り道などで町の人から話しかけられる事とかが増えた気がする。
今まで誰かに仕事を評価される事なんて一切なかったから、なんだかくすぐったいような不思議な感覚である。
「そうなんですよ! 魔道具の買い換えはギルドの懐事情的にも厳しかったので、もう皆さんにお願いするしかないって思って、私がギルドマスターに提案したんです!」
そんな言葉を口にしたジュナさんの横で、ザイールが小さな声で「あれの何処が提案だったんだよ……」と呟いていた。
どうやらかなり強引にジュナさんが押し切ったらしい。そんな人には見えなかったのでちょっと意外だった。
「成る程ねー。そっちの事情はある程度分かったし、そろそろ壊れちゃった問題の魔道具を私達に見せてよ。その方が良いよね?」
「そうですね。修理に取り掛かるのは出来るだけ早い方が良いでしょうし、こちらも魔道具の修理にどれくらい時間がかかるのかを把握したいですからね」
カティアの呟きにリサラが同意の声を上げ、ソファから立ち上がる。
「お、おう。分かった。そういう事なら案内しよう」
2人に続くようにザイールとジュナさんが立ち上がり、問題の魔道具を見せてもらう事となった。




