第71話 カティアの実力
カティアが冒険者と模擬戦をする事になった。
冒険者達は一足先に外にあるという訓練場に向かい、俺達はカティアの側に集まっていた。
「大丈夫なんですか? いきなり冒険者と模擬戦をするだなんて……。そもそも、これから依頼の話だってあるんですよ?」
「その辺りは大丈夫だって〜、リサラは心配性だなぁ。模擬戦の方は私とセンパイにドーンと任せておいて、依頼の方はリサラとフィリアでしっかり聞いておいて、後で私達にも詳細とか教えてよ」
「えっ、俺もカティアと一緒なの……」
俺も一緒だとは思ってなかったので、カティアの言葉についうっかり嫌そうな声が漏れてしまった。
すると、それを聞いたカティアは頬を膨らませながら、ビシッとこちらを指差してきた。
「何ですか今の声は〜! 当たり前じゃないですか。センパイはか弱い女の子を1人で冒険者との模擬戦に行かせる気なんですか〜?」
「行かせる気なんですかって、カティアがあの3人に模擬戦を提案したんでしょうに……」
カティアの実力は学生時代に見てたから少しだけ知っているけど、冒険者相手は大丈夫なのだろうか。
そんな事を考えていると、フィリアから声を掛けられた。
「ディーくん、カティアちゃんの事宜しくね? 危なくなったらディーくんが守ってあげるんだよ?」
「……はいはい、その辺りはちゃんと分かってるよ」
まぁ、カティアの事だから、絶対に負けるつもりがないからこそ、あいつらに勝負を持ちかけたんだろうけど。
一方、当のカティアはというと、いつの間にか目の前から居なくなっていて、向かい側にいた2人組の若い少年と少女に何やら話しかけていた。
「カティア、何を話してたの?」
「あ〜、審判役をやってくれないか頼んでたんですよ。審判役は一応必要かなーって」
戻ってきたカティアに尋ねると、そんな言葉が返ってきた。
「成る程ね。んじゃ、俺達もそろそろ訓練場の方に向かいますか」
「ですね」
「気を付けてくださいよ〜! 分かってるんですか〜!」
後ろには振り返らずに心配性なリサラに手を振りながら、俺はカティアと一緒に訓練場に向かった。
◇
「ちゃんと逃げずに来たみたいだな」
訓練場に向かうと、待っていたと言わんばかりに冒険者3人組に出迎えられた。
訓練場にいるのは、俺とカティア、冒険者3人組、カティアが審判役を頼んだ2人、そこに更に野次馬らしき数人の冒険者だった。
まぁ、ギルドの中は静かだったから、あれだけ騒いでたら模擬戦をする話が伝わるのも仕方ないだろう。
「そういえばなんだけど、模擬戦のルールってどうするの?」
カティアが尋ねると、金髪の男が1本の木剣を俺達の前に放り投げてきた。
「ルールは単純だ。木剣を使用した勝負だ。相手の剣を弾き飛ばすか、相手が降参と言ったら勝ち。それでどうだ?」
「おっけー。シンプルだし私もそのルールでいいよ。じゃあ、審判役宜しくね〜」
「は、はい!」
「分かりました……!」
「えっ、ちょっとカティア……」
「大丈夫ですよ、センパイ。確かに真面目に剣を振るのは久しぶりですけど……。うん、感覚的に特に問題無いと思いますよ」
そう言ってカティアは床に転がっていた木剣を片手で拾い上げ、数回軽く振り払った。その動きは驚くほど手馴れていた。
「そうだ。このまま勝負するってのもつまらねえし、ここは1つ賭けでもやらないか?」
すると、ここで大柄な冒険者がにやけた表情を浮かべながら口を開いた。
「いいな、それ。その方が面白そうだしお互い気合いが入るだろ。俺達は構わないが、そっちはどうだ?」
その提案に対して、カティアはというと……。
「へえ〜、確かにそれは面白そうだね。じゃあ、もし私に勝てたら何でもそっちの言うことを聞いてあげるよ」
「おぉー、言ったな! もうやっぱなしって言ってももう遅いぜ!」
「ナイスだ、バーツ。へへっ、まさかこんな綺麗な女を好きにできる機会が俺達にもやって来るとはな……!」
「絶対負けんじゃねえぞ、カルメン。負けたら一生ギルドで笑われちまうぞ!」
当然、それを聞いた冒険者3人組はというと、誰の目から見ても分かるくらいに目の色が変わっていた。
そんな浮き足立ち始めた3人組を余所に、カティアは更にとんでもない事を言い放った。
「あれ、もう私に勝った気でいるの? まぁ、別にいいけど……。さ、それじゃあ3人まとめてでもいいから掛かって来なよ」
「「なっ……!?」」
それを聞いたこの場にいる全員が言葉を失った。
ただ1人、発言の主であるカティアだけを除いて。
「ん……? 大丈夫、大丈夫。3人一斉にまとめて掛かってきても、私には一太刀も当てられないと思うから。それよりこのまま待ってる時間が勿体無いし、早く掛かって来なよ〜」
「て、テメェ……! さっきから黙って聞いてりゃ、女の癖に舐めてんじゃ──!」
カルメンと呼ばれた金髪の冒険者が、木剣を振りかぶって勢い良くカティアに襲いかかった瞬間だった。
バキャっと何かが割れるような、凄まじい衝撃音が訓練場に響き渡った。
「はーい、まず1人」
そんなカティアの言葉と共に、金髪の冒険者が手にしていたはずの木剣がカランカランと地面に落ちた。
「……へ?」
一体何が起こったのか分からない様子の金髪の冒険者はぺたんと尻餅をついて、右手をずっと押さえたまま、自分の背後に転がったボロボロの木剣を見つめていた。
「…………」
まさに一瞬。一閃。
金髪の冒険者がカティアに襲い掛かろうとした瞬間に勝負が終わっていた。
……っていうか、なーんにも見えなかったんですけど。いつ剣を振ったんだ、あいつ。
何なのあの衝撃音。全然俺が守る必要性無いくらいに強いじゃん!
「一応確認だけど、私の勝ちでいいよね?」
「……えっ、あっ! は、はい!」
あまりの衝撃にシーンと静まり返った訓練場で、カティアは何事も無かったように審判役の少女に話しかけ、ポカンとしている金髪の取り巻き2人にも声を掛けた。
「そっちの残り2人はどうする? まだやる気なら全然私は相手になるけど……」
「いやいやいやいや! いい! いいです!」
「俺達じゃあんたにどう足掻いても勝てねえよ……! 負けでいい! いや、俺達の負けでお願いします!」
先程までの態度とは打って変わって、取り巻き達はカティアから大きく後退りながら首を横に振って頭を深く下げた。
「……お疲れ様、カティア。俺ってついてくる必要なかったんじゃないの?」
「ありましたよー。ありまくりです。センパイが居ないと私は本来の実力を出せませんから〜」
労いの言葉を戻ってきたカティアに伝えると、本気なのか嘘なのかよく分からない返事が返って来た。
まぁ、カティアのことだから絶対嘘なんだろうけど。
「でもまぁ、流石に振らなかった期間が長過ぎてかなり腕は鈍ってましたねー」
そう言って、カティアは剣を手にしていた右腕の二の腕辺りを入念に揉みほぐしていた。
あ、あれで腕が鈍ってたの。腕が鈍ってなかったらどんな事が出来るんでしょう、この子……。
「カルメンさーん! バーツさーん! トリルさーん! 今すぐ模擬戦はやめてくださ……って、あ、あれ?」
そんな事を考えていると、かなり慌てた様子でギルドの受付嬢が訓練場の方にやって来た。
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今後もなるべく早めの更新を心掛けて頑張っていきたいと思います




