第68話 冒険者ギルドへ
「渡してきますってセシルさんに言ってしまったものの、どんな顔してあいつらに会えばいいんだ……」
あんな態度で部屋を出てきてしまったという事もあって、これからフィリア達と顔を合わせるのがとても気が重かった。
まぁ、自業自得みたいなものと言ってしまえばそうなのだが……。
そんな事を頭の中で考えながら、俺はオベールさんの屋敷の門を出る。
そこで俺はある事に気付いてピタッと足を止めた。
「そういえば、冒険者ギルドって何処にある──」
「セーンパイ、どーんっ!」
「んだっ!?」
聞き覚えのある声と共に、言葉の途中でいきなり背後から強い衝撃に襲われ、俺は踏ん張ることも出来ずにズサーッと前のめりに倒れた。
「ありゃ……。大丈夫です、センパイ?」
「いてて……。なんでカティアがまだここに居るのさ」
パンパンと砂埃を払いながら体を起こし、いきなりぶつかって来たカティアの方に視線を向ける。
「カティアだけでなく、私とフィリアさんも居ますけど」
すると、これまた聞き覚えのある声がカティアの後ろから飛んできて、フィリアとリサラがカティアの横に並んだ。
どうやら3人とも冒険者ギルドに向かっていなかったらしい。
……何で3人ともこんな門の入り口にまだ居るんだ? てっきりもう冒険者ギルドに向かっていると思ってたのに。
「カティアちゃんとリサラちゃんが、ディーくんなら待ってれば来るだろうから待っていようって。だからみんなでディーくんが来るのをここで待ってたんだ」
まるで俺の考えを読み取ったかのように、フィリアが俺の疑問に答えてくれた。
フィリアの言葉を聞いて、俺は2人に視線を向ける。
「いやー、私達の読みが外れなくて良かったですよー」
「そうですね。まぁ、室長が来るのがあまりにも遅かったら部屋から連れ出しに行ってましたけど」
そう言ってカティアは腰に手を当てて胸を張り、リサラは腕を組みながら呟く。
「別に待たなくて良かったんだけど……。まぁ、いいや。フィリア、これを渡す」
「えっと、ディーくん。この手紙は何?」
セシルさんから渡された手紙をフィリアに渡すと、フィリアはキョトンとした様子で受け取った手紙と俺を交互に見た。
「セシルさんからフィリアに渡すように頼まれたんだよ。じゃ、渡すものを渡したから俺はもう戻る。後は頼んだぞ、フィリア」
「えっ、ええっ……! ディーくんも一緒に冒険者ギルドに行く流れじゃないの!?」
一言告げてから踵を返そうとすると、フィリアは驚きの声を上げる。
「いや、俺は一緒に冒険者ギルドに行くとは一言も言ってな……ん?」
足を止めて仕方なくフィリアの方を振り返ると、カティアが俺の右手を両手で取った。
「なーにを今更そんな事を言ってるんですか、センパイ。ほらほら、センパイも私達と一緒に冒険者ギルドに行きますよ〜」
そして、カティアは俺の手をぐいぐいと引っ張るように歩き始めた。
「えっ、なっ、ちょっとカティア……!?」
「まさかセンパイは私達3人だけで冒険者ギルドに向かわせるつもりなんです? センパイの可愛い可愛い後輩が冒険者ギルドに誘われちゃったりしたらどうするんですか〜?」
「か、可愛い後輩? 手のかかる後輩の間違いでしょ」
手を引っ張られながら適当に言葉を返すと、カティアは急に立ち止まった。
「……へー、そうですかそうですかー。じゃあ、センパイにはちょっと痛ーいお仕置きが必要ですね」
「へ……?」
そんな言葉と共に手首を掴まれたまま、カティアの左手が俺の肘へと添えられる。
あ、あれ……。もしかして、カティアを怒らせ──。
「分からず屋なセンパイにはこうです!」
その瞬間、カティアの手にぐっと力が込められた。
当然、カティアに掴まれていた俺の右腕がどうなるのかというと……。
「あ、あだだだっ!? ま、待って、ちょっと待てカティア! 人間の腕はそっちには曲がらな……あだだだだだっ!?」
「安心してください、センパイ。ちゃんと骨が折れない程度の力でやってるので大丈夫です。加減は分かってますから」
必死に抗議をしてみるものの、カティアはニコニコとした表情を浮かべたまま、力を緩めようとはしなかった。
ニコニコとした表情だというのに、カティアからは穏やかな雰囲気を全く感じなかった。
「お、俺が全然大丈夫じゃないから! 手のかかる後輩って言ったことは謝る! 謝るから……!」
それから、5分近くカティアに謝り続けて漸く解放された。
うん。これからはなるべくカティアは怒らせないようにしよう。そうしよう……。




