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第65話 騒がしい一日

「──で、ディラルトは結局夕方近くになるまであいつらの着せ替え人形にされてたのか」


「……えぇ、まぁ。だいたいそんな感じです」


 夜、レイチェルのお店から海の宝石亭に帰ってきた俺は、1人カウンター席で力尽きたように突っ伏したまま、厨房で調理中のガルフさんに今日の出来事を話していた。


 本当に今日は疲れた。思い返すだけで疲労感がどっと押し寄せてくる。


「次から次へとあいつらから服を渡されては着替えての繰り返しで……。本当に今日は大変でしたよ。はぁ……」


 フィリア達の衣服を褒めた後、レイチェル達に俺の服を選んでもらうことになった。

 ……なったのだが、それが俺の想像以上の長丁場となったのである。


 まさか昼食すら食べないで、服選びを続けるとは思わなかった。

 勿論、着せ替え人形となっていた俺も昼食は食べていない。そんな暇も権利も無かったのだ。


「はははっ! そいつは色々と大変だったな。だがまぁ、その服はよく似合ってると思うぞ。ほら、先ずは前菜のサラダだ」


 大きな溜め息を吐いた俺の様子に、ガルフさんは大きな笑い声をあげ、手早く作ったオイルを掛けた前菜のサラダをこちらに渡してきた。


「……それは、どうも。いただきます」


 体を起こしてガルフさんに礼を言いつつ、早速渡されたサラダをもしゃもしゃと食べ始める。

 うん、今日も美味しい。いつもの味だ。疲れた体に染み渡る感じがする。


「つーかディラルトよ。こんな所で1人でいないで、お前さんもあっちに戻らなくて良いのか?」


 次の料理を作り始めたガルフさんは、カウンター席に座る俺から、賑やかに盛り上がっている酒場の中央に視線を向けながら呟いた。

 それに対して、俺は小さく肩の力を抜きながら答える。


「良いんですよ。俺はあそこに混ざらなくたって。というか、今からあれに混ざったら確実に潰されますって……」


 そう答えながら、俺はゆっくりと背後を振り返る。

 そこには、他の酒場の客達と楽しそうに飲み交わすフィリア達の姿があった。


「あそこにいる連中はもう出来上がっちまってるし、全員が潰れるまで酒を飲む奴みたいだしな。混ざりに行ったら潰れるまで飲まされるか」


「えぇ、そうですよ。というか、この前だって潰れそうになるまで酒を飲まされたんですから……」


 つい先日、仕事終わりにここの常連客である漁師のおっちゃん達に酒を飲むぞと誘われたのだが、あんなに酒を飲まされたのは久しぶりだった。

 一体どういう鍛え方をすれば、水みたいに酒を毎日飲めるのかと思ったくらいである。


 ……まぁ、一番怖かったのはおっちゃん達の胃袋とかではなく、酔い潰れたおっちゃん達を迎えに来た奥さん達だったけれども。


「確かにディラルトまで潰れちまったら、嬢ちゃん達が全員潰れた後の面倒を見る奴が居なくなっちまうか……。それはちと困るな」


「あの、なんで俺がフィリア達の面倒を見る役になってるんです?」


「なんでって、そりゃあディラルトの立ち位置はあいつらの親みてえなもんだろ? だったら、お前があいつらの面倒見なきゃダメだろう」


「……いや、違うんですけど」


「ま、とりあえずだ。追加の料理が出来たから、これをあいつらのテーブルに持ってってくれ」


 そう言ってガルフさんは話を切るように、パスタに揚げ物に炒め物をこれでもかと盛り付けた大皿をドンとカウンターに置いた。


 えっ、俺が持っていくのか? あの酔っ払い達の中心に……?


「あの、今さっき俺が潰れたら困るとか言いませんでした?」


「あぁ、言ったぞ。そうは言ったが、お前もこんな所で1人で寂しく飲んでないで、潰れない程度にあいつらに混じって飲んで来いって話だよ」


「いや、潰れない程度にって無茶な事を……。というか、マリーナはどうしたんです?」


「マリーナならどーせあの集まりの中だろうよ。たぶんレイチェル辺りに絡まれて捕まってんじゃねえか? 因みに、ディラルトが持っていかない場合は大声であいつらを呼ぶからな。さぁ、どうする?」


 それってどう足掻いても俺には酔い潰れる選択肢しか残ってないって事じゃないか。


「……分かりましたよ。俺が向こうに運びますよ。あと、酔い潰れても文句言わないでくださいよ?」


「おう。こぼさないよう気を付けろよ。もし酔い潰れたら、骨くらいは拾ってやるよ」


 観念してガルフさんに返事をすると、ガルフさんは親指をグッと立てながらこちらに白い歯を見せたのだった。


「は、はははっ……」


 こ、これから起こる出来事を考えたら、ガルフさんの冗談は全く笑えなかった。

 俺は乾いた笑いを浮かべながら、観念して酔っ払い達に潰される覚悟を決めた。


「おぉ〜、ディラルトじゃんかー! お前今まで何処に行ってたんだよ〜。ちゃんと酒は飲んでるか〜?」


「ディラルト、どうせだからお前さんも俺達と一緒に飲もうじゃねえか! フィリアの嬢ちゃん達もその方がいいだろ?」


「センパイセンパーイ! このお酒とっれも美味しいれすよー! 一緒に飲みましょうよ〜!」


 レイチェル達の居るテーブルに料理を運びに行ったら、当然のように酒を飲めと絡まれたのは言うまでもない。

 そして翌日、俺を除いた全員がひどい二日酔いでダウンして、俺だけがセシルさんに怒られたのはまた別の話である。


 うん、お酒はほどほどにするのが一番だな。

評価ポイント1000突破してました

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