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第61話 類は友を呼ぶ?

ちょっと体調崩してたりで更新遅れました

「へー、お店の奥はこうなってたんだ」


 物珍しそうに部屋全体をくまなく見渡しながら、カティアが感心した様子で声を漏らす。


 レイチェルに案内された奥の部屋は、俗に言うアトリエのような部屋だった。

 身長が異なる女性を模した木製の人形が3体置かれていたり、大きな作業机の上に置かれた魔動ミシンの横には、描き途中らしきドレスなどが描かれたノートが何冊も積み上げられていた。


「かなり散らかってるし、もてなすような物とか何も出せなくて悪いな。この部屋に客を呼び入れる事なんざ、1度足りとも考えた事がなかったからな。適当にそこにあるソファにでも座ってくれ」


 そう言って、レイチェルはソファを指差してから、大きなクッションのような椅子に背中から倒れ込むように座った。

 そして、俺達全員がソファやイスに座ったのを見てから、レイチェルは気を取り直すように口を開いた。


「さてと、それじゃあ改めて自己紹介でも軽くしておくか。あたしの名前はレイチェル・ヴィリアンハープ。さっきの会話でもう分かってると思うが、あたしの実家は金持ち貴族に人気な高級衣料品店のヴィリアンハープだ。……まぁ、今のあたしはあの店とは全くの無関係だから、実家の事は一切気にしないでくれると助かるな」


 そう言って、レイチェルは自己紹介を終えた。

 今のレイチェルの口振りと表情などからして、あまり実家の事は好きではないらしい。

 というか、まるで喧嘩別れでもして来たようにも感じられた。


 レイチェルの事情がかなり気になったが、先ずはこちらも軽い自己紹介をする事にした。


「俺の名前はディラルト・カールクリフ。見ての通り魔術師をやっている。色々あって、つい最近王都からこの町にやって来たばかりだけど、これからよろしく頼む」


「私はカティア。センパイと一緒にこの町にやって来た魔術師だよ。よろしくね〜」


 俺が自己紹介を終えると、隣に座るカティアが俺の事を指差しながら、続けて自己紹介を済ませていく。


「私の名前はリサラ・グラスフィールです。前の2人と一緒にこの町にやって来ていて、同じように魔術師をやっています。よろしくお願いします」


「えっと、私の名前はフィリア・マインツ。3人よりも1月程前にこの町に来ていて、一応私も魔術師をやってます。よろしくお願いします」


 そのままの調子で、残りの2人もスムーズに自己紹介を済ませていった。


「ディラルトにカティアにリサラにフィリアか。4人全員魔術師なんだな。話す機会はあんまり多くないだろうが、これからよろしくな」




 ◇




「それで、レイチェル。さっきの話の続きになるんだけどさ、実家があのヴィリアンハープなのに、何でレイチェルはこの町にいるの?」


 お互いに簡単な自己紹介を済ませたところで、カティアがレイチェルに先程の話の続きを尋ねていった。


「あー、その話か……」


 レイチェルは小さく溜め息を吐いてから話し始めた。


「まぁ、それはあれだ。具体的な事は言えないが、あたしがこの町にいるのは、単純に実家に居るのが嫌になって、こっそりと出てきたんだよ。要するに家出って奴だな」


「こっそりって……。レイチェルがこの町に居るのって、レイチェルの両親とかは知ってるの?」


「いや、店に関係ある奴はまだ誰も知らないだろうな。あたしがこの町に居るのを知ってたら、絶対に王都に連れ戻そうと人を寄越してる筈だからな」


 マリーナの問いかけに対して、レイチェルは首を横に振って、ニヤリとした笑みを浮かべながら答えた。


「えっ、それってどういう事?」


「ヴィリアンハープで取り扱っている既製服のデザインは、主にあたしがやってたんだよ」


「えっ」


「なっ……」


 自慢でもするかのようにレイチェルが少し得意げに呟き、その言葉を聞いたカティアとリサラがかなり驚いた様子で声を漏らす。


「まぁ、既製服の方に関しちゃ、元となる服のデザインさえあれば誰でも作れるようなもんだから、あたしが居なくても特に問題はないんだけどな」


 俺とフィリアもポカンとした表情でレイチェルの事を見つめることしか出来なかった。


「あとは店が困るような事って言えば……、オートクチュールの依頼が来ても製作出来ない事くらいか?」


「お、おーとくちゅーる……? ねぇねぇ、レイチェル。それって何なの?」


 マリーナだけがきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げながら疑問の声を上げた。


「ん? あぁー、そっかそっか。貴族でもなきゃ、普通はオートクチュールなんてのも知らなくて当たり前か」


 そんなマリーナの反応を見たレイチェルは、小さくポンと手を叩いてから、説明を始めていった。


「オートクチュールってのは、その店一番の職人が自分で服のデザインとかをして、最高の素材を使用して作り上げた、たった1人の客の為の衣服だ。もっと簡単に言えば、世界に1着しかないめちゃくちゃ高価な服って奴さ」


「えっ、それもレイチェルが作ってたの……? じゃあ、レイチェルがこの町に居るのって、レイチェルの実家のお店的にはかなり困った状況なんじゃないの?」


「あぁ、そうだな。店の売り上げ的にも、評判的にもじわじわと痛手になってるだろうな」


 マリーナの言葉に、レイチェルは他人事のように答える。

 もう完全に自分は無関係といった様子が、レイチェルの言葉や態度から感じ取れた。


「あっちが考えを改めない限りは、あたしは絶対に店に戻るつもりはない。あたしは親の商売道具なんかになったつもりは微塵もないからな」


 そして、そう言葉を続けたレイチェルの目には、強い意志が込められていたのだった。

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