第59話 服屋へ
そういう訳で、みんなで新しい服を買いに行くことになった。
町の大通りをマリーナ、カティア、リサラの3人が仲良く並んで歩き、そのすぐ後ろを俺とフィリアが並んで歩いていく。
「今日も朝の港で揚がったばかりの新鮮な魚がたくさん並んでるよ〜! 見ていくだけでもどうだい!」
「いらっしゃい、いらっしゃい! うちの商品も見ていかねえかー! 今なら安くしとくよー!」
午前中というのもあって、露店が並ぶ大通りは買い物客などの多くの人が行き交い、露店の店主などが客を必死に呼び込もうとする声があちこちから飛び交っていて、とても活気に満ち溢れていた。
そんな通りを真っ直ぐ突き進んでいると、カティアが隣を歩いているマリーナに問いかけた。
「ねぇねぇ、マリーナ。さっきから周りの露店に全く寄ろうとしないけど、目的のお店はこの大通りにはない感じなの?」
「うん。目的のお店はこの大通りを抜けて、もう少し町の中を歩いていった所にあるんだ」
カティアの問いかけに対して、マリーナはこくんと小さく頷いてから、前を指差しながら言葉を返した。
どうやら目的の服屋はこの大通りではなく、この先に進んだ所にあるらしい。
「マリーナは、その服屋を良く利用しているのですか?」
「うん、そうだね。今着てるこの服だったり、前にディラルトさん達に町を案内した時に着てた服とか、私が普段宿で来てる給仕服も、これから向かうお店で買ったものなんだ」
「へぇ〜。それじゃあ、結構可愛い服とかも多く扱ってる感じなんだ。普通の服を着るのなんて数年振りだから、その店で扱ってる服が私にも似合えばいいな〜」
「カティアさん達なら絶対似合うから、そんな心配なんかしなくても大丈夫だよ〜!」
前を歩くカティア達はそんな賑やかな会話を繰り広げながら、活気で溢れる大通りを通り過ぎていく。
そして、マリーナに案内されること約10分ほどで、俺達は目的のお店の前に辿り着いた。
「えっと……。こちらのお店、ですか……?」
リサラが戸惑いの声を漏らしながら、目の前のお店を眺める。
お店の外観はとても落ち着いた雰囲気で、初見だと間違いなく服屋だとは分からないだろう。
どちらかというと、薬草だったり鉱石などの素材を扱っていそうな問屋と言われた方がピンとくる。そんな見た目と雰囲気をしていた。
「ねぇ、マリーナ。私にはお店が閉まってるように見えるんだけど……」
店の扉の前に立ったカティアがこちらを振り返りながら、そんな言葉を口にした。
よく見ると、お店の扉には「閉店中。起こさないでください」というメッセージが書かれた看板が掛けられていて、店内に明かりなどは点いておらず、傍目から見ると閉まっているようにも見えた。
……ひょっとして、この店も今日はお休みの日だったりするのでは?
そんな考えが頭の中に浮かんできていたが、マリーナはそれを否定するような言葉を口にした。
「あー……大丈夫、大丈夫。この看板は全く気にしないでいいよ。どーせ、これは客避けで付けてるだけだから……」
そして、小さな溜め息を溢したマリーナは店の看板をサラリと無視しながら店の扉を開けて、来客を知らせる鐘の音を響かせながら、明かりの点いていない薄暗い店内に入っていった。
どう見ても閉まっているように見えるが、どうやらお店が閉まっている訳ではないらしい。
しかし、お店なのに客避けとは一体どういう意味だろうか?
「……とりあえず、私達もお店の中に入ってみよっか?」
「あぁ、そうだな」
フィリアの提案に返事をしながら、俺達もマリーナの後に続いて店内に入っていく。
「暗かったりして、お店の外からはよく分かりませんでしたが、本当にここは服屋だったんですね……」
リサラが店内を見回しながら、感心した様子で呟いた。
その言葉通り、店内には数え切れないくらいの様々な衣類が綺麗に並べられていた。
「マリーナちゃんは何処だろうね」
先に店内に入ったはずのマリーナの姿を探していると、店の奥の部屋からマリーナの声が聞こえてきた。
「──今日はお客さんも連れてきてるんだから、レイチェルも早くちゃんと起きてってば〜! 」
「別に客連れて来いなんて、あたしは一言も頼んでないんだけど……。うあぁ〜!? 起きる、起きるから! そんなガタガタ肩を揺らすなって〜……」
そして、パチッというスイッチを入れる音と共に店内の明かりがパッとついて、奥の部屋からマリーナに背中を押されながら、渋々といった様子で、だぼだぼの服を着た1人の若い女性が、眠たそうに欠伸をしながら姿を現した。
ちょっと遅れてしまいました
新キャラの設定はまだふわふわしてます




