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第55話 お昼休憩

「皆様おかえりなさいませ。随分と早いお戻りですが、もしかして本日の業務はもう全て終わらせてしまったのですか……?」


 オベールさんの屋敷に戻ってくると、いつものようにセシルさんが玄関までやって来て、ほんの少し驚いた表情で俺達を迎えてくれた。

 セシルさんの問いかけに、フィリアは困ったように頬を掻きながら、屋敷に戻ってきた理由をセシルさんに説明していく。


「あ、あ〜、えっと、頼まれてた作業の方はまだ半分程度しか終わらせてないんです……けど……。その、時間的にも丁度良かったので一旦作業を中断して、みんなでお昼休憩にしようという話になって戻ってきたんです」


「……成る程、そうだったのですね」


 不安そうに様子を伺うフィリアに対して、セシルさんは少しホッとしたように一息ついて、落ち着いた様子で言葉を続けた。


「昼食の件ですが、簡単なものでしたら直ぐにご用意出来ますが……。それでも宜しいでしょうか?」


「私はそれでも問題ないですよ! ……ディーくん達も問題ないよね?」


 セシルさんに元気よく返事をしてから、フィリアは思い出したようにこちらを振り返った。


「あぁ、別に問題ないぞ」


「私もです〜」


「私も2人と同じで問題ありません」


 確認の視線を向けてくるフィリアに対して、俺達は揃って頷き返す。

 王都では昼食云々以前に、休憩している暇すらない日の方が多かったから、こうしてのんびりとお昼休憩できる時点で全く文句はなかった。


 そんな俺達の反応を見て、セシルさんは小さく礼をしてから口を開いた。


「畏まりました。では、すぐに昼食の方を用意して参ります」


「っ……! あ、ありがとうございますセシルさん……!」


 セシルさんの返答を聞いたフィリアはぱあっと嬉しそうな表情を浮かべ、セシルさんに深々と頭を下げた。


「いえいえ、この程度のことでしたらいつでも気軽にお申し付けください。それでは、皆様は食堂の方で少々お待ちください」


「は、はい! 分かりました!」


 そう言って、微笑を浮かべながら去っていったセシルさんの後ろ姿を見送ってから、俺達は食堂の方へと向かったのだった。




 ◇




「──大変お待たせ致しました。皆様のお口に合えば宜しいのですが、どうぞお召し上がりください」


 30分くらい待つのかと思っていたが、ほんの数分ほどでセシルさんは食堂にやってきた。

 そして、セシルさんが俺達に昼食として用意してくれたのは、手作りのサンドイッチだった。


「「いただきます」」


 全員でちゃんと食事の挨拶をしてから、昼食の時間が始まった。

 お皿に盛り付けられた、ハムとチーズを挟んだ至ってシンプルなバゲットのサンドイッチを手に取って、早速ぱくりと一口食べる。


「お、美味しい……」


 正直言って、今まで食べてきたサンドイッチの中で一番かもしれない。

 そう思ってしまうほど、セシルさんが作ってくれたサンドイッチは美味しいと感じた。


 バゲットのパリパリとした食感に、切り目を入れたバゲットの内側に塗られたバターの風味、はみ出るくらいにたっぷりと挟まれた肉厚なハムと濃厚なチーズの味が、それぞれ絶妙なバランスになっていて、こちらの食欲をどんどんと刺激してくる。

 気付けばもう一口、もう一口と、あっという間にお皿の上にあったサンドイッチを食べきってしまっていた。


「セシルさん、サンドイッチとっても美味しかったです」


「うんうん。普通にお金を出してでもまた食べたいなって思うくらいに、セシルが作ってくれたサンドイッチは美味しかったよ」


 俺とフィリアの対面に座っているカティアとリサラが、後ろで控えていたセシルさんに言葉を掛けた。

 よく見ると、2人のお皿も俺と同じように綺麗にサンドイッチがなくなっていた。


「お褒め頂きありがとうございます、カティア様にリサラ様。簡単なものしか用意出来ず色々と不安だったのですが、皆様のお口に合ったようで、私としては何よりでございます」


 そう言って、2人の言葉にセシルさんはにこやかな表情を浮かべながら丁寧にお辞儀をした。


「それじゃあ午後の作業も頑張ろっか!」


「あぁ、そうだな」


 食後の挨拶を済ませ、立ち上がったフィリアに相槌をうつ。

 こうして俺達は気合を入れ直して、午後の作業へと向かったのだった。

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