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第53話 メイドさんは手厳しい

 朝食を済ませた俺達は、改めて身支度などを整えてから宿を出発して、新しい職場であるこの町の領主の屋敷にやって来た。


「皆様、おはようございます」


「おはようございます、セシルさん!」


 屋敷の中に入ると、クールな雰囲気を放つ白髪のメイドさんに迎えられ、フィリアが元気よく挨拶を返した。

 彼女の名前はセシルさん。この屋敷で働いているメイドさんの1人で、何でも出来るんじゃないかと思ってしまうくらい凄い有能な人だ。


「それにしても、フィリア様だけではなくディラルト様達もご一緒にいらっしゃるとは……。本日こそ雪でも降るのかもしれませんね」


 セシルさんはフィリアから俺達に視線を向け、そこから更に窓から外の様子を確かめるように視線を移した。


「あ、相変わらず手厳しいですね。セシルさん……」


「それは仕方ないと思いますが。つい先日、大寝坊をして夕方頃にこの屋敷にいらっしゃったのはどちら様でしたか?」


「その件に関しては本当にすみませんでした!」


 セシルさんに冷ややかな目を向けられ、俺は反射的に頭を深く下げた。


 紆余曲折があって、フィリアの部下としてこの町で働く事が決まった日のその翌日、俺達3人は寝坊をした。それはもう盛大に寝坊した。

 目が覚めたら窓から夕日が差し込んでいるのを見た時は、久しぶりに血の気が引いた。締切を勘違いした時並みに焦ったくらいだった。


 そういった事があって、セシルさんからの俺達に対する評価はあっという間に地の底まで落ちてしまったのだ。


「寝坊の件に関しては、もう全て済んだ話ですのでこれ以上の謝罪は結構です。それでは、オベール様の部屋にご案内致します」


 そう言ってセシルさんは話をそこで切り、俺達はそのままセシルさんに領主の部屋へと案内された。

 部屋に入ると、窓の前に置かれた仕事用の机で30代くらいの穏やかな雰囲気の男性が新聞を読んでいた。


「おや、今日も全員いるみたいだね。おはようだ」


 こちらに気付いた男性は読んでいた新聞を机に置いて、ニコニコとした笑顔を浮かべながら、こちらに挨拶をした。


 こちらの男性の名前はオベールさん。この港町フェリトアの領主であり、俺達の雇い主である。


「おはようございます、オベールさん」


「ディラルト君達はもう体調の方は大丈夫なのかい?」


「多分大丈夫だとは思うんですけど、流石に確証の方はまだ持てないですかね〜……ははは」


 オベールさんの質問に対して、俺は頬を掻きながら困った様子で答える。

 それを聞いたオベールさんは、小さく溜息を吐いてから口を開いた。


「まぁ、そうだろうね。普通は()()()()()だけに、強化魔法を使用するだなんて考えは思い付かないだろうし、それを2年近くも続けた事による身体への反動がどうなるのかなんて、誰も全く想像がつかないさ……」


 オベールさんはそこで一旦言葉を切って、頬杖を突いてから話を再開した。


「本当に、よくまぁそんな無謀な方法を思いついたというか、やろうと思ったよね。君達には呆れを通り越して感心するばかりだよ……」


「あ、あはは……」


 こちらに呆れた表情を向けるオベールさんの言葉に、俺はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


 この町で働く事になる前、つまりは王都の魔導研究所で働いていた俺、カティア、リサラの3人は、俺の元上司が考案した強化魔法を()()()()使()()する事で、睡眠時間などを極力削り、魔道具や術式の開発時間を確保して、研究所の業務をなんとか回していた。


 そんな生活を2年近く続けていた事を、盛大に寝坊をしてしまった日にオベールさん達に話したら、先程のような呆れ果てたような反応が、オベールさんやセシルさん、そして幼馴染のフィリアから返ってきたのである。


「ま、もう暫くは様子を見つつ、無理だけはしないことだよ。特に、徹夜だけは厳禁だからね? 今の君達はこの町にとって貴重な魔術師だからね。下手に倒れられたりすると、色々と大きな影響があるからね」


 フッと肩の力を抜いたオベールさんは穏やかな雰囲気のまま、こちらに釘をさしてきた。


「わ、分かってます。流石にまたあんな生活をしたいとは俺達も思ってませんから……」


「分かっているのならよろしい。それじゃ、今日も頑張るんだよ」


 俺の返事を聞いて、オベールさんは満足そうに頷いた。

 その後、今日の仕事の内容をセシルさんに聞いてから俺達はオベールさんの部屋を出た。

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