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第52話 新生活が始まって 2

「あっ、ディラルトさんにフィリアさん! おっはよ〜!」


 フィリアと共に1階に降りると、空になった食器を運んでいた給仕服姿の金髪の少女の元気な声がこちらに飛んできた。


「おはよう、マリーナ」


「おはよう、マリーナちゃん」


 軽く手をあげて挨拶を返しながら、俺とフィリアは少女の方に近寄る。


 給仕服を着ているこの少女の名前はマリーナ。俺達が宿泊しているこの宿屋兼食事処である「海の宝石」の看板娘である。


「このお皿を片付けちゃってくるから、お兄さん達は適当に綺麗なテーブルで座って待っててよ〜」


「あぁ、分かったよ」


 マリーナに返事をしながら、適当に近くのテーブルに座る。

 すると、厨房の奥から右目に大きな傷のある強面の男性が顔を見せた。


「マリーナ以外の声がしたと思ったら、ディラルトとフィリアの2人が起きてきたのか」


「おはようございます、ガルフさん」


「おはようございます」


 俺とフィリアは厨房から出てきた男性に座ったまま挨拶をする。


 この怖い見た目をしている男性の名前はガルフさん。ここの主人であり、なんと看板娘であるマリーナの父親でもある。


「おう、おはようさん。残りの2人は姿が見当たらねえが、まだ部屋で寝てんのか……って、ちょうど良くあいつらも起きてきたみたいだな」


 ガルフさんの言葉につられて視線を食堂の入口の方に向けると、眠そうなカティアと少し疲れた様子のリサラがやって来るところだった。


「おっちゃん、おはよ〜……ふわぁ」


 眠たそうに欠伸をしながら、俺達がいるテーブルにやってきたカティアがガルフさんに挨拶をする。


「おいおい、お互いに自己紹介だってしたんだから、もう俺をおっちゃんって呼ぶなっての」


「おっちゃんはおっちゃんなんだからいいじゃん別に〜」


「ったく、カティアは仕方ねえな……。それじゃあ俺は全員分の朝飯を作ってくるから、お前らは適当にマリーナの相手でもして待っててくれ」


「ちょっとお父さん、それってどういう意味なの! ねぇー!」


 カティアの言葉にガルフさんは肩を小さく落としてから、俺達にそう告げて厨房の方に戻っていく。

 そんなガルフさんの後を追うように、マリーナも抗議の声を上げながら厨房に向かっていった。


「あ、あはは……。ガルフさんとマリーナちゃんは今日も相変わらずだね……」


「あの2人、喧嘩しない日がないんじゃないかって感じで毎日のようにぶつかってるもんな」


 厨房の方から聞こえてくる2人の口喧嘩に、隣に座るフィリアが苦笑いを浮かべる。

 毎日のように口喧嘩をして、相手の事が嫌になったりしないのかと思ってしまうけれど、それはきっとあの2人が親子だからこそ問題ないのだろう。


 ぼんやりとそんな事を考えていると、リサラがやって来てフィリアの対面の席に座った。


「あっ、おはようリサラちゃん。……なんだか疲れてるようだけど大丈夫?」


 フィリアが心配そうにリサラに声を掛ける。

 そんな心配するフィリアに対して、リサラは少しだけ元気がなさそうに口を開いた。


「おはようございます、フィリアさん。疲れてるというよりかは、ちょっと寝起きが悪かっただけですのであまり気にしないでください……」


「そ、そう……? でも、体調的に厳しかったりしたらリサラちゃんは無理しなくていいからね? 今日の分の仕事はディーくんに全部任せちゃっていいから!」


「あっ、いえ、寝起きが悪かったのはカティアが原因ですし、体調の方も大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます、フィリアさん」


 そう言って、リサラは笑みを浮かべながらフィリアにお礼を伝えた。

 すると、そこにカティアが体をぐーっと伸ばしながらやってきた。


「私が原因だなんてひっどいな~。ちょーっとリサラを抱き枕にして一緒のベッドで寝てただけじゃーん。そう思いませんか~、センパイ?」


 そして、カティアはリサラに返事をすると共に俺の両肩に手を置いて、体重を預けるようにのしかかりながら、そのままするりと俺の首元に手を回して甘えるように抱き着いてきた。


「思わないよ。今回もカティアが悪いでしょうに……。それより俺にくっつかない。ほら、離れた離れた」


「え~っ、もうちょっとくっついてたっていいじゃないですかー! ケチー!」


 首に回されたカティアの手を掴んで、俺は空いていた左隣にカティアを座らせた。

 いつもだったらどれだけ力を込めても引き剥がせないのに、今日はすんなりとカティアを引き剥がすことが出来た。


 その様子を見ていたリサラは小さな溜め息を吐いてから口を開いた。


「全く、カティアは……。抱き枕にされてたこっちは危うく窒息するかと思ったくらいなんですからね? 今後はなるべく気を付けてくださいよ?」


「分かった分かったよ。これからはなるべく気をつけるって〜」


「本当に分かってるんですか……? はぁ……」


 カティアの適当な返事を聞いて、リサラが呆れた表情を浮かべていると、ガルフさんとマリーナが厨房の方から出てきた。


「おら、お前らー朝飯が出来たぞー。じゃれ合いはそれくらいにしとけよー」


 そんなガルフさんの言葉と共に朝食がテーブルの上に並べられて、のんびり平和な朝食の時間となったのだった。

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