第6話 ここは第七魔術研究室 2
ディラルトが気を失ってからも、リサラはそれに気付く事なく彼の体をゆすり続けていた。
「なんでずっと黙り続けてるんですか室長! いい加減私達に詳しい説明を……!」
すると、ずっとリサラの側にいたカティアがトントンと肩を叩きながら口を挟んだ。
「リサラ、リサラー」
「……何ですか、カティア」
カティアから声を掛けられ、リサラはディラルトの体を揺らしていた手を止めた。
「それくらいにしておいた方が良いんじゃない? その、そろそろセンパイの命が危ないと思うよ〜」
「へっ? ……あっ」
首を指差すカティアの指摘を受けて、リサラはそこで漸くディラルトの魂が抜けている事に気付いた。
「あ、あれ!? し、室長……?」
先程までと違って優しくディラルトの体を揺するが、ディラルトはピクリとも動かない。
「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「変な事言ってる場合じゃないですよカティア! どうしてもっと早く止めてくれなかったんですか!?」
さぁーっと青褪めた表情になったリサラは若干涙目になりながらカティアに訴えた。
「いやー、慌ててるリサラはいつ見ても面白いから〜。それに、ちゃんと何回かリサラに声掛けたけど、リサラってば全部無視するんだもん」
「はうっ! そ、それはすみませんでした……」
カティアの指摘にリサラは胸を押さえて謝罪の言葉を漏らす。
「ま、とりあえず気絶してるセンパイはそこのソファに寝かしちゃお? そのうち復活するだろうし」
「そ、そうですね! ……室長、ちゃんと起きますよね?」
「……」
「だ、黙らないでくださいよ!? ねぇ、カティア!」
そんな会話を繰り広げながらカティアとリサラは2人で力を合わせて、気絶してしまったディラルトをソファに寝かせたのだった。
◇
「──いやー、危うく2人に詳しい説明とか何にもしないで川の向こうに渡っちゃう所だったよー。ごめんねー、2人とも」
あれから意識を取り戻した俺は、ソファに座って後頭部を掻きながら、前に立っているカティアとリサラに何事も無かったかのように明るく話し掛けた。
「その、すみませんでした……」
「もう大丈夫なんですか、センパイ?」
「うん、術式間違えちゃった時に比べたら全然大丈夫。別になんともないよ。だからリサラもそんなに気にしなくて良いからね」
まぁ、まさか部下に物理的に意識を持ってかれるとは思いもしなかったけど。
大きく体を伸ばしながら俺はイスに座ったカティアの質問に答え、俯いて反省している様子のリサラに声を掛けた。
「気を取り直してさっきの話の続きだけど……2人は何を聞きたい? といっても、俺もあんまり説明できる事はないんだけどさ」
「んー、そうですね……とりあえず、ここが解散するのは分かったので、明日からどうなるのかを教えて欲しいです」
カティアの質問に俺はピシリと石のように固まる。
そういえば、2人に解散する事は伝えたけど……クビになる事はまだ伝えられてないような……?
……あれ、これってちょっとヤバくない?
「センパイ? 急に固まってどうしたんですか?」
「あっ、あ〜、えっとー……そのー……」
カティアから声を掛けられて我に返った俺は、両手の人差し指同士を何度もくっつけながら、2人から視線を逸らす事しかできなかった。
「あの、室長。どうして私達から視線を逸らしているのでしょうか?」
「ソ、ソラシテナイヨ。ウン、ベツニソラシテナイ」
「あのー、センパイ。私達に何を隠してるんです?」
流石に俺の様子がおかしいと思い始めたのか、2人は俺に圧を掛けると共に疑惑の視線を向け始めた。
このまま隠し続ける訳にもいかないし、いい加減腹を括ろう。こうなったら、もうなるようになれの精神である。
「え、えーっと、実はね……明日から研究所に来なくて良い事になっちゃった〜……」
「……」
「……」
若干頬を痙攣らせながらクビになった事を2人に伝えると、一瞬でシーンとした空気が室内に漂い始めた。
「……あ、あの、室長。それってつまり?」
「クビって事だね、うん」
額を強く抑えながら尋ねてきたリサラに答える。
すると、今度はカティアが口を開いた。
「……マジです?」
「マジっす」
同じように短く答えると、それを聞いた2人はガックリと脱力したように体を前のめりに倒しながら、はぁ〜と大きな溜息を吐いたのだった。