第51話 新生活が始まって 1
新章? 第2部開始です
「ん、うぅ……。もう朝なのか」
眩しさを感じて自然と目が覚めた。
寝袋に入ったまま窓に視線を向けると、うっすらと太陽の日差しが部屋に入り込み始めていた。
「ふわぁ〜、いてて……。やっぱり寝袋の下に何か敷いた方が良いのかもな」
最初はあんまり慣れなかったが、もうすっかりと慣れてきた木の床の感触を寝袋越しに背中で感じながら、俺は小さな呻き声を漏らしつつ、もぞもぞと静かに起き上がる。
床で寝たせいなのか凝り固まってしまった両肩を交互にぐるぐると回しながら、俺は部屋に2つ並んで置かれているベッドの方にチラリと視線を向けた。
「んぅ、んへへ……」
「う、うぅ……」
そこには、何故か同じベッドで寝ている2人の美少女の姿があった。
気持ち良さそうに寝ているウェーブのかかった茶髪の胸の大きな少女が、明るい緑髪を腰あたりまで伸ばした少女の頭を胸元で抱きしめるような体勢で眠っていて、抱きしめられている緑髪の少女の方は少々寝苦しそうにも見えた。
気持ちよさそうに寝ている茶髪の少女の名前はカティア、逆に少し苦しそうにしている緑髪の少女の方はリサラといい、2人とも俺の元部下だった少女達である。
「……なんでカティアはリサラのベッドで寝てるんだか」
寝る前は別々のベッドで寝ていたのに、今は仲良く同じベッドで寝ている2人を眺めながら、俺は少し呆れながら呟く。
これじゃあ寝る場所を決めた意味がないじゃないかと言いたくなってくる。
まぁ、2人からの提案を色々と蹴って床で寝るのを選んだのは俺なんだけれども。
「それにしても……この町に到着してからもう1週間が経ったのか。時間が流れるのは早いもんだな」
ベッドで寝ている2人から視線を外して、俺は窓の外を眺めながら大きく体を上下に伸ばす。
魔導研究所をクビになって、そこから更に王都を逃げるように飛び出して、のんびりと過ごすつもりで王都の南方に位置するこの港町フェリトアにやって来た訳なのだが、気が付けばあっという間に1週間が経ってしまっていた。
「さてと、今日も一日のんびりと働きますか」
気を取り直すように小さく息を吐き出してから、魔法も使って手早く身嗜みを整えながら、俺は寝ている2人を起こさないように静かに部屋を出た。
◇
俺が廊下に出たのとほとんど同じタイミングで、隣の部屋の扉が開いた。
隣の部屋から出てきたのは、とても眠たそうにしている銀髪のショートヘアの少女だった。
「ふわぁ〜ぁ──っ……!?」
欠伸をしながら部屋を出てきた少女は、俺の姿を目にした途端、我に返ったように急に慌てた様子で部屋の中に戻ってしまった。
一体どうしたのかと思いながら、少女が再び部屋から出てくるのを2、3分ほど待っていると、ガチャリと扉が開いて、なにやら頻りに髪型を気にしながら銀髪の少女が部屋から出てきた。
「お、おはようディーくん……。えっと、変な所とかないよね?」
「おはよう。あぁ、別に変な所とかは特にないと思うが……」
上から下へ視線をゆっくりと動かしながら、俺は挨拶をしてきた少女からの質問に答える。
いつも通り……というか、特に気になる所はないように感じた。
「そ、そっか。良かった……。ふわぁ、ぁふ……」
俺の返事を聞いた少女はホッとした表情を浮かべると、気でも抜けたのか小さな欠伸をこぼした。
彼女の名前はフィリア。フィリアとは子供の頃からの付き合いで、所謂幼馴染の関係だ。
フィリアはエルメイン王国の宮廷魔導師の1人なのだが、平民という身分が原因で、王城勤めからこのフェリトアの町に単身で飛ばされてしまったのである。
「また随分と眠そうに見えるけど、フィリアは昨日も夜更かししてたのか?」
「あ、あはは……うん。まだ読んでなかった魔道具の本を読んでたら、色々と分からない事とかあったりして、ついつい寝るのが遅くなっちゃって……」
図星だったのか、俺の問いかけにフィリアは困ったように頬を掻きながら、コクリと小さく頷いた。
俺はそんなフィリアに溜息混じりに言葉を掛けた。
「相変わらず勉強熱心なのは良いと思うけど、魔道具の本を読み漁るのはほどほどにしておけよ? 他の分野と違って、魔道具の本は著者の個性が強く出てるからな。術式の組み合わせ方も人それぞれって感じだし、中には動けばいいって感じでとんでもなく適当な事を書いてる本だってあるんだぞ」
「うっ、やっぱりそうだったんだ……。同じ内容の説明なのに、本によってかなり違ったりするのはそういう事だったんだね」
思い当たる節がいくつかあったのか、フィリアは微妙な表情を浮かべながら肩を落とした。
俺はそんなフィリアの肩をポンポンと軽く叩きながら声を掛けた。
「まぁ、これからは魔道具の本は参考程度にするんだな。分からない所とかがあったら、その時は俺が教えるから気軽に聞いてくれ」
「ほ、ほんと!? やっぱりなしとか言わないよね、ディーくん!」
「そ、そんな意地悪な事言う訳ないだろ。それより、そろそろ朝食にしようぜ」
ガバっと顔を上げて、こちらに詰め寄ってきたフィリアの勢いに若干気圧されながらも、俺はフィリアと共に1階に降りたのだった。
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