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エピローグ

「んっ、んんーっ! 複写機の魔道具の修理をしてただけなのに、いつの間にかすっかり夕焼け空になっちゃいましたね〜」


 凝り固まった体を伸ばすように、両手をぐーっと真上に伸ばしているカティアが青から紅に染まった空を見上げながら呟いた。

 魔道具の修理を始める前は雲一つない青空が広がっていたのに、外に出たら太陽は沈みかけていて、月がうっすらと顔を出していた。


「そんなに時間は経っていないと思ってたけど、案外修理するのに時間がかかってたみたいだねー」


「魔道具の術式は元がどんなものだったのか分からないくらいに殆ど消えちゃっていましたし、魔道具内部の部品もいくつか破損していましたからね。それら全てを直すとなると、それなりの時間はかかってしまいますよね」


 小さなため息を吐くリサラの言葉を聞きながら、俺もカティアに(なら)うように体をぐーっと伸ばす。


 オベールさんとの話が終わった後、俺達が何をしていたのかというと、フィリアには直す事が出来なかった複写機の魔道具の修理である。

 本当は複写機だけでなく、屋敷に残っている他の魔道具も全部修理しておきたかったのだが、思ったよりも複写機の修理に時間がかかってしまい、それだけでフィリアの勤務時間が終わってしまったのだった。


 居残って修理作業を続けようとしたのだが、セシルさんに「ディラルト様達も残業する必要はありません」とピシャリと言われてしまったので、俺達は素直にフィリアと一緒に宿を目指して帰り道を歩いていた。


「それにしても、何事もなく無事に話が済んでよかったですね〜センパイ。いきなり領主の屋敷に着いた時はどうなることかと思いましたもの」


「そうだなー。誰かさんが全く説明してくれなかったから驚いたなぁ……」


 大きく息を吐きながら手を下ろしていると、前を歩いていたカティアがこちらを振り返りながら呟いて、だんだんと歩調を緩めていって俺の左隣に並んできた。

 俺はそんなカティアの言葉に少し大袈裟に同意しながら、右隣を歩いているフィリアへと視線をチラリと送った。


「うっ……!」


 視線を向けられたフィリアはビクッと体を震わせてから、俺の視線から(のが)れるようにプイっと顔を背けた。


「おい」


「だ、黙ってた事については悪かったって思ってるけど! でも、この町の領主様に会って欲しいって伝えてたら、ディーくんは絶対に私と一緒に来てくれなかったでしょ?」


「あぁ、絶対に嫌って言ってただろうな」


 俺はフィリアの問いかけに迷うことなく即答した。

 仮に王都の貴族からの手が回っている可能性がなかったとしても、俺はフィリアの頼みを断っている自信があった。


「ほらぁ、そんな気がしたから私もディーくんに黙ってるしかなかったんだもん!」


 俺の返事を聞いたフィリアは拗ねたように頬を膨らませ、黙っていた理由を口にしながらこちらを指差してきた。

 流石は長い付き合いの幼馴染と言うべきか。俺の事をよく理解しての行動だった。

 俺は両手を頭の後ろに当てながら天を見上げ、大きなため息を吐いた。


 すると、フィリアの隣でずっと静かに俺達の会話を聞いていたリサラが、腕を組みながら口を開いた。


「フィリアさんをいじめるのはそれくらいにしたらどうですか、室長。私達はこれからフィリアさんと同じ仕事の仲間になるんですから」


「いや、別にフィリアをいじめてるつもりは……」


「そーですよ。センパイとフィリアの2人だけで仲良くお話してないで、私とリサラも会話に混ぜてくださいよ~」


「うおっ!?」


 俺の言葉を遮るように、リサラの言葉に同意の声をあげながら、左隣を歩いていたカティアがいきなり俺の腕に抱き着いてきた。


「こ、こら、カティア。放れろって……なんだって毎回お前はくっついてくるんだよ!」


「もう私歩くのに疲れちゃったんで嫌でーす。宿まで私を連れてってくださ~い!」


 相変わらず全く振りほどける気配がないまま、カティアは俺の左腕を抱いたまま歩き始め、楽しそうにどんどんと前に進んでいく。


「疲れたとか連れてってとか言ってるのに、何でお前がどんどん前に引っ張ってくんだよ! お、おい、聞いてるのかカティア……!」


 あぁ、もう。本当に人の話を……いや、俺の話を聞かない奴だなこいつは!


 そんな事を考えていると、いきなり歩いていたカティアが足を止め、カティアに引っ張られていた俺は前のめりに倒れそうになる。


「もう~、本当に色々と我儘なセンパイですね〜」


「ど、どっちがだ……」


 カティアに文句を言いながら、俺はフラフラと体を起こす。

 その間に、カティアは定位置と言わんばかりに再び俺の左隣に並んできた。


「ん……?」


 すると、今度は自由だった俺の右腕に誰かがくっついてきた感触が伝わってくる。

 フィリアかと思って視線を向けると、そこにはなんとリサラが控えめに抱き着いていた。


「えっ、急にどうしたの。リサラ」


 リサラはそのままカティアと同じように俺の隣に並びながら、少し恥ずかしそうに口を開いた。


「……いえ、右腕が空いていたみたいなので、少しだけ失礼します」


「おぉ~、リサラも大胆になったね~。ひょっとして危機感でも感じちゃったかな?」


 そんなリサラを見てカティアが大袈裟に驚いくような揶揄うような声をあげる。

 それに対して、リサラは落ち着いた様子で言葉を返した。


「うるさいですよ、カティア。それに、危機感云々はカティアも同じようなものでしょう?」


 俺は顔を合わせている2人に対して声を掛けた。


「危機感とかはよく分からないけど、とりあえず2人とも俺の腕を放してくれない? その、すごい歩き辛いんだけど……」


「嫌です」

「お断りします」


「…………」


「ふふっ。なんだか楽しそうだね、ディーくん」


 そこに追いついてきたフィリアがこちらの様子を見て、くすりとした笑いを漏らしながら声を掛けてきた。


「いや、別に楽しくないんだが……。はぁ……」


 俺はフィリアに返事をしながら大きく肩を落とす。


 のんびりするつもりで王都を出てきたのに、全くのんびり出来そうにない気がするのは俺の気のせいだろうか。

 ……まぁ、その辺りはもうなるようになれとでも言っておこう。


 とりあえず、今は王都に居た時よりも、のんびりとした生活が送れますように。

これにて第1部完結です

10万字付近で一区切り出来るように書いていたのですが、とっても大変でした


ここまで読んでくださりありがとうございます!

ブクマや評価なども本当に励みになりました!

今後の更新もお楽しみ頂けたら嬉しいです

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