第49話 1人ではなく4人で
冒頭部分の展開を練り直し続けてたら遅れました
「こちらが、普段フィリア様が作業をしている部屋になります」
オベールさんからの依頼を引き受ける事にした俺達は、早速魔術師としての仕事を開始……という事にはならず、セシルさんにフィリアが仕事で使用している部屋へと案内されていた。
「ふーん、1人で使うには結構広い部屋だね」
部屋の中をぐるりと見回していたカティアが呟く。
部屋の広さは思っていたよりもかなり広く、俺達が使っていた研究室よりも一回り程広いのではないだろうか。
まぁ、あの研究室は単純に散らかりすぎていたってのもあるけど……。
部屋に1つしかない木製の机の上に視線を向けると、そこにはフィリアが色々と試行錯誤した証である書類などの小さな山が出来ており、机のすぐ近くに置かれた本棚には魔道具などに関連する本が多く並べられており、部屋の隅には修理予定の魔道具が綺麗に1ヶ所にまとめられていた。
「えぇ。本来であれば、この部屋はフィリア様だけでなく他の魔術師の方も使用される予定の部屋でしたので。それを考慮して広めの部屋を用意させていただきました」
「……あ、あぁ、なるほどね。それでこの部屋こんなに広いんだ」
カティアの呟きに対して、俺の隣に立っているセシルさんが答えた。
リサラはどうしてるのかと視線を向けてみると、部屋の隅に置かれた魔道具の前でフィリアに色々と質問しているようだった。
相変わらずとても真面目だ。……いや、今後の事を考えたら俺もフィリアに色々と聞いておくべきか?
「ディラルト様、少々宜しいでしょうか?」
そんな事を考えながらぼんやりとリサラ達の方を眺めていると、側にいたセシルさんから声を掛けられた。
「はい。どうしました、セシルさん」
「オベール様の依頼を引き受けていただけるとの事でしたが、依頼の具体的な業務内容や報酬などについては話し合っていなかったと思います。なので、後日改めてそれらについての話し合いや、正式な契約を交わす場を設けさせて頂けないでしょうか? 本来であればあの場ですべき話だったのですが……申し訳ありません」
そう言い終えたセシルさんは申し訳なさそうに俺に頭を下げた。
言われてみると、依頼の報酬などの詳しい事は特に何も話し合わずにこちらも返事をしてしまっていた。
今更オベールさんからの依頼を断るつもりはないけど、確かにそういった事はちゃんと話し合っておいた方がいいだろう。
「あぁ、いえ……。こちらもそういった事をすっかり失念していたので、セシルさんも謝らないでください。それに、報酬や正式な契約などの話をするなら、俺達はまだちゃんとお役に立てる所をお見せ出来ていませんから……」
俺の返事を聞いたセシルさんは、何か思いついた様子で顔を上げて口を開いた。
「それでしたら、一先ずは仮採用というのはいかがでしょうか? ディラルト様達が魔術師としての最低限の働きが出来て、尚且つ何も問題を起こさなければ正式に契約を結ぶという事になりますが……」
「そうですね。その方がいいと思います。こちらもそれで構いません」
「ありがとうございます。それでは、私は今の話も含めてオベール様に報告してきますので、一旦失礼させていただきます。何か御用がありましたら、先程の応接室かこの屋敷にいる他の者にでもお声掛けください」
「分かりました。色々と丁寧にありがとうございます、セシルさん」
「いえ、私はメイドとして当然の事をしたまでですので。それでは、失礼させていただきます」
相変わらず丁寧にこちらに礼をしてから、セシルさんは静かに部屋を後にした。
すると、部屋を出て行ったセシルさんと入れ替わるようにカティアとリサラ達が側にやってきた。
「ねぇねぇ、ディーくん。セシルさんとどんな話をしてたの?」
「ん? あぁ。さっき応接室で魔術師として働くとは言ってたけど、報酬とか依頼の詳しい話は全くしてなかったから、後日また話し合いの場を設けさせてくれってお願いをされたんだよ」
フィリアの質問に答えると、側で聞いていたカティアとリサラが「あっ」と何やら思い出したような表情を浮かべた。
どうやら仕事の報酬とかを忘れていたのは俺だけではなかったようだ。
「それでその後セシルさんと少し話し合って、一先ず仮採用という事にしましょうっていう話に落ち着いたんだ」
「そうだったんだ。でも、ディーくんなら絶対すぐにオベールさん達にも認めて貰えるよ! 私は最初から大丈夫だって信じてるし!」
そういってフィリアは胸元辺りで両手をギュッと握りながら自信満々に呟く。
そんなフィリアに対して、カティアがジト目で突っ込んだ。
「センパイだけじゃなくて、私とリサラもいるんだけどねー」
「えっ、あっ!? もっ、勿論カティアちゃんとリサラちゃんの事も忘れてないよ! うん、忘れてないから! 2人の事も信じてる。信じてるからそんな目で見ないでよぉ……!」
カティアに指摘されたフィリアはビクッと体を震わせ、ブンブンと手を振りながら慌てた様子でカティアに弁明していた。
すると、それを見かねたリサラが助け舟を出すように一歩前に出て口を開いた。
「フィリアさんを弄るのはそのくらいにしたらどうです、カティア。それよりも、私達はこの後どうしましょうか? やることと言えば、部屋の隅に置いてある魔道具の修理ですけど、仮採用という扱いの私達はあまり勝手な事はしない方がいいような気もしますが……」
「その辺りはフィリアに上手く指示を出して貰えばいいんじゃない? フィリアの指示に従ったなら文句は言われないだろうし、フィリアもそれで問題とかは特にないよな?」
部屋の隅にある魔道具に視線を向けながらこちらに尋ねてきたリサラに対して、俺はぐーっと手の平を天井に向けて体を伸ばしながら答え、そのままフィリアにも声を掛けた。
「あっ、うん。そうだね」
フィリアは仕切り直すように手をパンと合わせ、ほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべながら言葉を続けた。
「えっと、さっきリサラちゃんには少し伝えたんだけど、あそこにある魔道具はほんの一部で、まだまだ数えきれないくらい修理しなきゃいけない魔道具があるんだ。だから、その……色々と足を引っ張たりして迷惑かけちゃうと思うんだけど、ディーくん達には私と一緒に魔道具の修理を手伝ってくれると助かるかな……」
不安そうな表情でこちらの反応を伺うフィリアに対して、真っ先に返事をしたのはカティアだった。
「ん、りょうかーい。それじゃあ、私達4人で手分けして早く終わらせちゃいましょー!」
「そうですね。オベールさん達にも早く認めてもらう為にも、この部屋にある魔道具だけでも早く片付けてしまいましょう」
カティアの言葉に続くようにリサラも返事をして、俺達は早速魔道具の修理に取り掛かったのだった。
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