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第47話 領主からの依頼 3

 それから屋敷の中を歩き進み、セシルさんに案内されたのは応接室だった。

 そこには、既に1人の先客がいた。


 部屋に2つある大きなソファの内、奥側に置かれたソファにゆったりと腰掛けたまま、俺達が来るのを待っていたと言わんばかりに、こちらに好奇の視線を向ける30代くらいの男性。

 身長は俺と同じくらい。体つきの方は筋肉質にはあまり見えず、多分俺と同じ……。特に体を鍛えたりはしていない、俗に言う魔術師タイプだろう。


「ふむ、ほうほう……」


 当の男性は穏やかで物腰柔らかそうな雰囲気を放ちながらも、その視線の奥からはこちらをしっかりと見定めようとしている気配を強く感じた。


「やぁ、君達とは初めましてだね。私は、この港町フェリトアの領主をやらせてもらっているオベール・グレイランだ。今日はどうぞよろしく頼むよ」


 そして、値踏みをするような視線をこちらに向けていた男性はフッと肩の力を抜くと、にこやかな表情を浮かべながら口を開いて、こちらに右手を差し出すと共に自らの名前を名乗ったのだった。


「え、えぇ。よろしくお願いします……」


 ぎこちない笑みを浮かべながら、俺は差し出されたこの町の領主であるオベールさんの手を握り返す。


 さぁ、困った。これは凄い困った事になった。

 この後の事を考えてたら、急に胃がキリキリしてきた……マジで本当にどうしよう。


 まさかこんなにも早くこの町の領主と対面する事になるなんて考えていなかった。はっきり言って想定外の事態だ。

 流石に今更この状況で逃げ出すなんて事をするつもりはないが、気持ち的には今すぐ何も話さずに宿に帰りたかった。


「さて、まずは何から話そうか……。うーん、いきなり本題を切り出しちゃってもいいんだけど、やっぱりここは君達にも自己紹介をしてもらおうかな。フィリア君の知り合いみたいだから恐らく何も問題はないのだろうけど、こちらとしても君達の名前などは最低でも把握しておきたいからね」


 俺と握手を交わし終えたオベールさんは少し考え込むような素振りを見せ、フィリアの事を話題に上げながらこちらに話を振ってきた。


「……分かりました」


 俺はそれに対して、心を落ち着かせるように少し間を置いてからオベールさんに返事をする。


 やっぱり自己紹介をする流れになってしまった……。出来ればこちらの名前なんか聞かずにさっさと本題に入って欲しかった。

 これが普通の人相手だったら名乗らなくても大丈夫だったのだろうけど、町の領主相手となるとそれを通すのは不可能だろう。

 名前を名乗りたくないなんて言った瞬間、間違いなく怪しまれて衛兵などを呼ばれてしまうはずだ。


「それじゃあ、まずは私から自己紹介させてもらいます」


 こうなってしまったら、色々と諦めてもう腹をくくるしかないだろう。最早なるようになれの精神である。


 俺は観念したように小さく肩を落としてから、オベールさん達の方に向き直って口を開いた。


「……私の名前はディラルト・カールクリフ。この町に来る前は王都にある魔導研究所の第七魔術研究室の室長を務めてました」


「へぇ、君があの……」


 俺の名前を聞いた途端、オベールさんは小さく声を上げた。

 やはりと言うべきか、オベールさんは俺の名前を知っていたらしい。


「あぁ、失礼。今のは気にせずに自己紹介を続けて欲しい」


 だが、オベールさんはそれ以上は特に追求してくることもせず、俺達にそのまま自己紹介を続けるよう促してきた。


 ……何でだ? 今のオベールさんの反応からして、間違いなく王都の方から俺達についての情報などが届いているはず。

 それなのに、この人は一体何を考えてるんだ?


「……カティア。次を頼んだ」


 オベールさんの狙いが何なのか色々と気になったが、俺は隣に座っているカティアに自己紹介するよう声を掛けた。


「はーい。私の名前はカティア。この町に来る前はセンパ……こほん。魔導研究所の第七魔術研究室に所属してました」


「君達は上司と部下の関係なのか。……とすると、カティア君の隣のキミも同じなのかな?」


 いつもより少しだけ真面目モードの言葉遣いになったカティアの自己紹介を聞いたオベールさんは、カティアの隣に座っているリサラにも声を掛けた。


「は、はい。私の名前はリサラ・グラスフィールです。カティアと同様に、私も魔導研究所の第七魔術研究室に所属してました」


「そうかそうか。成る程ね……」


 俺達3人の簡単な自己紹介を聞き終えたオベールさんは、何やら考え込むように腕を組みながら声を漏らした。


「──うん。とりあえず合格って事にしよう!」


 そして、自分の中で考えがまとまったのか、オベールさんは顔を上げると共に、大きな声でそんな言葉を口にしたのだった。

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