第42話 フェリトアの町を歩いて 2
歩き始めてから5分程経っただろうか。
マリーナにまず最初に案内されたのは、多くの露店が並んだ町の中心部に向かう広い通りだった。
「ここがこの町の大通り! 食材とか日用品だったり、基本的なものはだいたいここの通りにあるお店だけで揃えられると思うよ。うちのお店も毎朝ここの通りで食材を仕入れてるんだ〜」
この町に着いた時は夜だったから人の姿は全くなかったが、今の時間帯の通りにはそれなりの人の往来があり活気もそこそこにあった。
食料品に日用品、他には装飾品などを取り扱っている店がいくつも並んでおり、マリーナが言ったように大方のものはここの通りに来れば揃えられそうだ。
「港町なだけあってやはり魚介類が多いですね。見たことがない魚などが並んでます」
「港というか、海はこの町にとって唯一といってもいい名物みたいなものだからね〜。ここからちょっと遠いけど港の方も見ていくかな? 見るものと言ったら船と大きな灯台くらいなんだけど……」
立ち止まったりせずに露店に並べられている商品を興味津々に眺めていたリサラの言葉にマリーナが反応する。
「港かぁ……。ん~、港の方は今度時間があるときでも良いかな。港の方まで行ってたら、宿に戻るころには昼過ぎになっちゃうだろうし」
少し考えるような素振りを見せながら、俺はマリーナの問いかけに答える。
マリーナにそう答えた瞬間、カティアとリサラが呆れたような視線をこちらに向けてきたが、それはきっと俺の気のせいだろう。うん。
今いる場所から港の方まで歩いていたら、恐らく30分以上はかかるだろう。そんな長い時間日光に当たり続けてたら俺の体は間違いなく溶けてしまう。
いや、流石に溶けはしないけど、1週間くらい疲れて動けなくなる自信はあった。
「それじゃあ港への案内はまた今度にするね!」
そうして再びマリーナの解説を聞いたり、カティアやリサラが質問したりしながら露店が並ぶ大通りを通り過ぎていく。
時折露店の店主の方から主にマリーナに対して何回か声を掛けられたりしたが、見事といった手並みでマリーナはそれら全部をあしらってしまった。流石は日頃から酔っ払いの相手もしている看板娘である。
「これでこの通りのお店はだいたい見れたかな。お兄さん達は他に見ておきたいところとかはあるかな?」
通りを抜けて広場のような場所にでたところでマリーナが足を止めてこちらを振り返った。
「私は特にないかな~。暫くはのんびりモードであまり外を歩き回らない予定だからね」
「私も欲しいものは今の大通りやその途中で見かけたお店で十分揃えられそうなのが分かったので大丈夫です」
「そっか、よかった~。他にもあるって言われたらこっちが困ってたんだ~」
2人の言葉を聞いて、マリーナがホッとした様子で声を漏らした。
「……困るってどういう事ですか?」
「この町で紹介できるようなものって、港を除いたらあとは領主様の屋敷と向こうの方にある冒険者ギルドくらいしかないんだよね〜」
疑問の声を漏らしたリサラに対して、マリーナが少し困ったように苦笑いを浮かべながら理由を説明する。
「ふーん。ひょっとして領主の屋敷って、あそこにあるちょっと大きめのやつ?」
「うん、そうだよ。あそこがこの町の領主様の屋敷」
「へぇ、あれが……」
俺はカティアが指差した方に視線を向ける。
そこには、離れていても分かるくらい他の建物よりも明らかに立派で大きな屋敷があった。
この町の領主に挨拶するような事は万が一にもないだろうけど、屋敷の場所は一応覚えておこう。
冒険者ギルドもこの町にあるみたいだけど、そっちは絶対に訪れる事はないから覚える必要はないだろう。
「とりあえず案内の方はひと段落着いた感じだし、マリーナの用事を済ませて宿に戻ろっか」
俺は3人にそう提案して、マリーナの用事を済ませたのだった。




