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第39話 優秀な魔術師ですから 3

「あの魔道具を直すって……そんな事出来んのか?」


「おっちゃん、私達が何処で働いてたのかをすっかり忘れちゃってない? 魔道具の修理なんて出来るに決まってるじゃん」


 親父さんからの疑問の声にカティアは自信満々といった様子で腰に手を当てて胸を張りながら答える。

 すると、それを聞いたマリーナがポンと手を叩きながら口を開いた。


「あ、そっか! お姉さん達って王都の魔導研究所って所で働いてたんだっけ!」


「その通り~。だから魔道具の事ならドーンと私達に任せちゃってよ。このままあの魔道具が使えないと色々と困るんでしょ?」


 マリーナの言葉に頷きながら、カティアは親父さんに再び声を掛ける。


「そりゃその通りだが……。でもいいのか? 魔道具の修理なんかに時間を費やしちまっても。嬢ちゃん達は何か予定があって下に降りてきたんじゃねえのか?」


「ん〜? 修理って言っても、私一人で修理するわけじゃないからそんなに時間かからないと思うよ? それに、予定があるっていってもこの町の散策だったからね〜。絶対に今日しなきゃダメって予定じゃないからあんまり気にしないでよ」


 そう言葉を区切ってカティアは漸くこちらに話を振ってきた。


「センパイもそれでいいですよね?」


「……俺は別に構わないよ。リサラはどう?」


 カティアに返事をしながら、俺は隣にいるリサラに話を振る。

 リサラは額に手を当てて、小さな溜息を吐いてから口を開いた。


「流石にこの状況を見て放っておくなんて事は出来ませんからね。それに、カティアが言ったように私達の予定はいつでもできる町の散策ですからね……」


 そこでリサラは言葉を一度区切ると、マリーナ達の方に向き直っていたカティアの背後に回る。


「──ただ、私達に相談もしないで勝手に話を進めるのはちょっとやめて欲しいですけどね!」


 そして、リサラは両手の拳をカティアのこめかみ部分にグリグリと押し付けていった。


「あぁああああっ、痛い、痛い! 待って待ってリサラ! ちゃんと反省はしてるからぁ! た、助けてセンパーイ!」


 こちらに助けを求めるカティアの声が聞こえるが、俺はそれを静かに聞き流した。

 触らぬ神にはなんとやらである。




 ♢




「それじゃあサクッとこの魔道具を修理しちゃおっか」


 場所は食堂から変わって再び厨房の中。

 俺は問題の銀色の魔道具の上に手を置いて後ろを振り返り、若干涙目で頭を押さえているカティアと何処かスッキリした様子のリサラに声を掛けた。


「う、うぅ……まだ頭がジンジンします。それで、今回は普通に魔道具の修理だけでいいんです?」


「うーん、そうだね……。色々と勝手に弄って魔道具の使い勝手を大きく変える訳にもいかないし、今回は普通に修理だけする感じでいいかな」


 どうするのかを尋ねてきたカティアに、俺は少し考えてから言葉を返す。


 俺やカティア達が使う魔道具だったら色々と機能を付け加えたりして魔改造を施すが、この魔道具を使うのは俺達ではなく親父さんとマリーナだ。

 毎日頻繁に使うであろう魔道具に俺達が良かれと思って勝手に魔改造をしても、親父さんやマリーナからしたらいい迷惑だろう。


「そういう事ならすぐに終わりそうですね。それでは今度こそ修理を始めちゃいましょう」


「そうだね。そうしよう」


 リサラの言葉を合図に、俺達は食器洗いの魔道具の修理に取り掛かり始めた。


「よいしょっと……。えーっと、この魔道具の制御術式があるのはっと……」


 魔道具をひょいと両手で持ち上げ、厨房の真ん中の台に移動させ、壁があったせいであまり見えなかった魔道具の背面部分を調べていく。


「あ、ここですね。取り出します」


 いち早く制御術式がしまってある場所に気付いたリサラが魔道具に手をかざして、この魔道具を制御する為の術式が何個も重ねられた心臓ともいえる部品を慎重に取り出す。


「ありゃ、やっぱり術式が色々と消えかかってますねー」


 取り出した部品を見たカティアが思わず呟く。


 魔道具に使われていた術式は長年の使用ですっかり劣化してしまったのか、どれもあちこち文字などが欠けてしまっていた。

 こんなボロボロの術式では、魔道具が暴走していきなり水を吐き出してしまうのも仕方ないだろう。


「ここまでボロボロだと修復するよりも、新しく術式を描き直しちゃった方が早そうかな」


「修復する場所が多すぎてこれは描き直しちゃった方が良さそうですねー。手間的にも術式修復するのも新しく描くのもあんまり変わらないでしょうし」


「それじゃ、2人はこっちの術式をよろしく。描き終わったら俺に渡して」


「はいはーい」


「分かりました」


 カティアの言葉に頷きながら、俺は重なっていた術式を1つ1つにバラして2人に渡す。

 そして、3人で手分けをして新しい術式を描いていく。


「はーい、センパイ。新しく描き直した術式ですよ〜」


「こちらも無事に描き終わりました」


 王都で毎日色んな術式とにらめっこしてきたお陰で、普通の魔道具に使われる簡単な術式を描き直すなんて俺達には朝飯前だった。ほんの数分ちょっとで全ての術式を新しく描き終える事が出来た。


「ん、ありがと。それじゃあ最後に全部の術式を重ねてっと……」


 2人から渡された新しい術式と俺が描いた方の術式に魔力を少しずつ流し込みながら、寸分の誤差もないように綺麗に重ね合わせていく。


「よし、完成!」


 そして、無事に術式を重ね終えた新たな部品を元あった場所に戻す。

 こうして、魔道具の修理はあっさり無事に終わったのだった。

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