第38話 優秀な魔術師ですから 2
「ぬおっ!?」
「きゃっ……!?」
部屋を出て1階に降りると、ガチャンとお皿が割れるような音と、マリーナと親父さんの悲鳴が厨房の方から聞こえてきた。
「……何かあったみたいだね」
「行ってみましょう」
カティア達と顔を見合わせてから厨房に慌てて向かうと、そこには全身びしょ濡れになったマリーナと親父さんの姿と、勢いよく水を噴き出し続けている銀色の大きな箱型の魔道具があった。
「ど、どうしたのこれ? うわ~、一面水浸しだね」
「感心してる場合じゃないでしょう。カティア、足元に散らばってる破片だけは早めに片付けますよ。あ、怪我とかは大丈夫ですか?」
カティアとリサラに親父さん達を任せている間に、俺は床に散らばっているお皿の破片などに気を付けながら、問題の魔道具に近づいて完全に停止させる。
とりあえず厨房がこれ以上水浸しになる事はないし、お皿とかが割れる事とかもないだろう。
「悪いな、兄ちゃん達。お陰で……は、はくしょん!!」
「もう、お父さん。そんな大きなくしゃみして……くちゅん!」
親父さんの大きなくしゃみに続くようにマリーナが可愛らしいくしゃみをした。
あの魔道具に冷たい水を頭から全身に掛けられて体が冷えてしまったのか、2人はブルブルと体を震わせていた。
「このまま濡れたままで風邪を引いてしまったら大変ですし、ひとまず先に着替えて貰った方が良さそうですね」
「そうだね。詳しい話はそれからにしよっか。親父さん達もそれで良いですかね?」
「あぁ、分かった。それじゃあさっさと着替えてくるからちょっと待っててくれ」
♢
着替えを済ませたマーメイ親子が戻ってきて、俺達は朝食の時みたいに同じテーブルに座っていた。
「いやぁ、改めて済まねえな……」
「ありがとね、お兄さん達。朝から迷惑ばかりかけちゃってゴメンね」
「いえいえ、こういうのは助け合いですよ。それよりも、どうしてあんな事になったのですか?」
リサラが進行役となって事情を尋ねると、親父さんはその時の様子を話し始めた。
「溜まった朝の分の皿洗いをしようとあの食器洗いの魔道具を動かしたんだが、とうとうイかれちまったのか、いきなりフタが開いたと思ったら勢いよく水を吹き出しやがってな……。お陰でこっちは全身びしょ濡れになるわ、洗おうと思ってた皿は殆どが割れちまうわで酷い目にあったぜ」
説明を終えた親父さんはやれやれといった様子で肩を落とした。
今の話を聞いた感じだと、あの魔道具が故障してしまったと考えるのが一番妥当だろう。
俺もあの魔道具を停止させた時に軽く全体を見たが、特に大きな外傷とかは無かったから内部の術式関連がおかしくなったのだと考えている。
「ところでお父さん。お皿がいっぱい割れちゃったし、あの魔道具も暫く使えないしでお店の方はどうするつもりなの?」
ふと思い出したようにマリーナが隣に座る親父さんに尋ねた。
「とりあえず残ってる皿とかでなんとかやってくしかねえだろ。皿がちょっと割れて、あの魔道具が使えなくなっただけで流石に店を休む訳にもいかねえし」
「……因みになんだけど、料理に使ったお皿とかは誰が洗うの」
「あ? そんなのお前が手で洗えばいいだけだろ?」
「私が手洗いするの!? 毎日お皿何枚使ってると思うのさー! そんなの出来る訳ないじゃん!」
少しだけ投げやりに答えた親父さんの言葉にマリーナが抗議の声をあげる。
対する親父さんはかなり面倒臭そうにしながらマリーナに言葉を返し、そのまま2人の会話はどんどんヒートアップしていった。
「皿つってもたかが100枚ちょっとだろ? それくらい気合いで頑張れば大丈夫だろ? 弱音を言ってる場合じゃねえだろ」
「お父さんは料理作るだけで皿洗いするつもりがないからそんな適当な事が言えるんでしょ! だいたい私がお客さんの注文聞いたり料理を運んだりしてるのに、いつ私がお皿を洗う暇があるっていうの! それも今日だけの問題じゃなくて、あの魔道具が治るまでずっとだよ!? 無理に決まってるじゃん!」
「それを言われると確かにそんな気もしてきたが……。だからってどうすりゃいいんだよ。魔道具が治るまで店を閉め続ける訳にもいかねえんだぞ?」
「そ、それは……そうだけど……」
冷静になった親父さんの言葉に、烈火の様に怒っていたマリーナも困った様子で言葉を詰まらせた。
「それじゃあ、私達があの魔道具を直しちゃおっか?」
そのまま沈黙が続くのかと思った時、カティアがそんな事を口にした。
魔道具? 魔導具? とかちょっと悩んだりしましたが、魔道具でいきます




