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第35話 嵐のような看板娘 1

 恋人。


 それは世間一般的には、相思相愛の関係にある相手の事である。

 人によっては将来を誓い合うような深ーい関係だったり、家同士の繋がりを強化する為の政略的な関係だったりする事もあるだろう。


 まぁ、俺には今まで生きてきてそのどちらとも縁が全くなかったんだけれども。

 ……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


「えっと、恋人は今の所いないけど……どうして急にそんな事を聞くの?」


「えっ、いないの!? じゃあじゃあ、お兄さんの恋人に私はどうかな?」


 俺の返答を聞いたマリーナは驚いた声を上げると共にチラリと周りを見回す。

 そして、そのままマリーナは俺の腕をむぎゅっと抱きながら、真っすぐにこちらを見つめてきた。


「……は、はい?」


 えっ、何この状況。いきなり何が起きてるのこれ。


 あまりの急な展開に俺は頭の処理が追い付いていなかった。

 俺に出来た事と言えば、こちらを見上げるマリーナを正面から見つめ返す事くらいで、あとは今のマリーナの一言でなんだかこの場の空気がほんの少しだけ変わった事に気が付いたことだった。


「ねぇねぇ。それで、お兄さんの恋人に私はどうなのかな? これでも自分の見た目とか体には結構自信があるんだけど……私が恋人じゃ嫌かな?」


 マリーナはそう言って、俺の右腕を抱きしめる力を更に強めていく。

 それによってマリーナの柔らかな胸の感触がダイレクトに伝わってきて、頭の中がどんどん胸の感触にばかり集中していってしまって大変宜しくなかった。


「ま、待ってくださいマリーナ! 室ちょ……その人の恋人だなんて正気ですか!?」


「そー、そー。そこの鼻の下伸ばしてるセンパイだけは辞めといたほうがいいよ? 魔導研究所で働いてはいたけど、今のセンパイは別にただの無職だし。マリーナには他に良い人がいっぱいいると思うよ〜?」


 すると、それを見ていたリサラが立ち上がりながら驚いた声を上げ、その隣で座ったままのカティアがマリーナに対して考え直すように訴えた。


 こ、こいつら……。人が黙っていれば色々と好き勝手に言いやがって……。


「私は別にお兄さんの仕事がなくても全然気にしないよ? いざとなったら、うちのお店のお手伝いとして雇っちゃえば問題ないし! お兄さんもそれでいいと思わない?」


 しかし、マリーナはカティアとリサラの意見を全く気にした様子もなく、依然として俺の腕を抱きしめたまま話しかけてくる。

 すると、今度はずっと話を見守っていたフィリアが口を開いた。


「えっと、マリーナちゃん。ディーくんとマリーナちゃんはまだ出会ったばかりなんだし、いきなり恋人っていうのはちょっと早すぎるんじゃないかな? その、もうちょっとお互いの事を知ってからの方がいいと私は思うんだけど……」


「そうかな〜? 私は恋人になるのに遅いとか早いとかは特にないと思うよ? ほら、運命の出逢いって言葉もあるし!」


「えっ!? あ、うぅ……そ、それはそうかもしれないけど……でも、その……」


 マリーナの返事が予想もしていなかった言葉だったのか、フィリアは大きく狼狽えながら視線をあちこちに彷徨わせる。

 そして、偶然俺と視線が合ったフィリアは何かを思いついた様子で再び口を開いた。

サブタイトルがネタ切れというか良いのが浮かばない…

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