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第33話 朝食の時間 1

 ──王都からこの町(フェリトア)に飛ばされた。


 幼馴染で宮廷魔導師のフィリアが口にした言葉に俺は驚きを隠せなかった。


 宮廷魔導師というのは、このエルメイン王国にある魔法学院を主席か次席で卒業した者しかなれないエリート中のエリートの証とも言える職と地位なのだ。

 そんな宮廷魔導師の1人であるフィリアが、何か問題を起こすとは俺には思えなかった。これだけは一番長い付き合いをしてきたからこそ断言できた。


「飛ばされちゃったって……一体何があったんだよ。何か問題を起こした訳ではないんだろ?」


「あはは……。ほら、宮廷魔導師の中で平民出身なのって私だけでしょ? だからその……一部の偉い人達からすると、やっぱり平民が王城の中を好き勝手に歩いているのは気に食わないみたいでね……」


 俺の問いかけに対して、隣に座るフィリアは苦笑いを浮かべながら答えた。


 そういえば、俺も元上司の命令で王城に出向くようになって、最初の頃は一部のお偉いさん達から白い目を向けられた記憶がある。

 エレオノーラ様やリーゼロッテ様とお話しするようになってからは、そんな視線を向けられる事は減ったけれど……。


「そんな時にタイミング悪くこの町で困った事も起きちゃってて……。はぁ〜……」


 フィリアは大きなため息を吐きながら、ぐでーっとテーブルに突っ伏すように体を前に倒した。


「えっと……もしかしてですけど、それを解決してこいって命令されたんですか?」


「……うん、その通りです。それでこの町にいます」


 気まずそうなリサラの質問にフィリアは顔だけあげ、力なく答えた。


 要するに、フィリアも俺と同じように貴族のせいで王都を追い出されたみたいだ。

 それが偶然同じ町で出会ってしまう辺り、切っては切れない幼馴染の腐れ縁みたいなものを感じてしまうが。


「フィリア、力になれそうな事があったらすぐに言えよ。こっちは仕事も失ったおかげで時間の余裕だけはたくさんあるからな」


「うん……ありがとディーくん」


 机に突っ伏しているフィリアを励ますように声を掛けると、タイミング良く俺のお腹が限界を迎えたみたいにうるさく鳴った。


「……」


 折角少しカッコいい事言えた気がするのに、なんでこんな時に限って鳴ってしまうんだろうか。


「これまた凄い音ですね〜、センパイ。いつの間に食いしん坊キャラになったんですか?」


「なってないよ! もうこの話はいいから、朝食にするよ」


「あはは。うん、そうだね。私もお腹空いちゃった。マリーナちゃーん! 注文いいかなー?」


「はーい! 今行くからちょっと待っててね〜!」


 ニヤニヤとしたカティアの視線を無視しながら強引に話を終わらせ、体を起こして笑顔を取り戻したフィリアが、近くのテーブルを拭いていたマリーナに声をかける。

 色々あったが、漸く朝食にありつける事になった。




「おっまたせ〜。うちの自慢のモーニングセットだよ〜! パンは後でお父さんが持ってくるから安心してね」


 朝食を頼んでから数分後、マリーナの元気な声と共にテーブルの上に6()()()()()()が並べられていく。

 お皿にはカリカリに焼かれたベーコンと半熟のオムレツ、サラダが盛り付けられており、その横には温かいスープも用意されていた。


 間違いなくここ最近で一番豪華でまともな食事と言っていいだろう。

 ところで、この余分な2人分の朝食は何なのだろうか?


「ねぇねぇ、なんかお皿の数が私達の人数より多くない? どうしたの?」


「あぁ、この余分な2人分は私とお父さんの分だからね〜。数を間違えたわけじゃないから安心して」


 俺達を代表する形で尋ねたカティアに対して、朝食をテーブルに並べ終えたマリーナが腰に手を当てながら答えた。


「マリーナ達も私達と一緒に朝食を食べるの?」


「うん。私達も朝はまだだったし、もうお兄さん達以外のお客さんは居ないからね〜。折角だから一緒に食べたいなって。ほら、大人数でワイワイしながら食べた方が楽しいじゃん? あー……でも、私のお父さんまで一緒に食べるのは嫌だったかな?」


 ニコニコとしていたマリーナが表情を一変して曇らせながら、不安そうに上目遣いでカティアに尋ねる。


 ナチュラルに親父さんの扱いだけ酷くないだろうかと思ってしまったのは俺だけだろうか。

 厨房にいるであろうマリーナの親父さんに対して、少しだけ同情の気持ちが湧いてしまう。


「ううん、私は全然大丈夫だよ。それにいいと思うよ。今まで大人数でご飯食べる暇なんて全く無かったし。センパイも良いですよねー?」


 カティアはすぐさま否定の言葉をマリーナに伝え、俺にも確認の声をかけてくる。


「あぁ、俺も問題ないよ」


「やったー! ありがとお姉さん!」


「わわっと……!?」


 俺も問題ないとカティアに伝えると、それを聞いたマリーナがカティアに嬉しさをぶつけるように抱き着いた。

 すると、そこに厨房から焼きたてのパンが入ったカゴを手にしたマリーナの親父さんもやってきた。


「あん? 今日は随分と大人数での朝食だな。と言っても、どうせマリーナが勝手に並べたんだろうが……。嬢ちゃん達は俺達が一緒でもいいのか?」


 流石は親子というべきか、マリーナの親父さんは事情を全てを理解した様子で俺達に尋ねる。


「もうお姉さん達にその確認は取ったよーだ! ちゃんとそこら辺は私だってしっかりしてますー!」


 足を止め、若干呆れたような表情を浮かべている親父さんに対して、カティアに抱き着いたままのマリーナが頬を膨らませながら答える。

 すると、マリーナの親父さんはやれやれといった様子で首を横に振りながら口を開いた。


「そうだったか。うちのバカ娘のワガママに付き合わせちまって悪いな」


「ちょっとお父さん! それってどういう事!」


「どういうって言葉通りの意味だっつの。ほら、折角作った朝食が冷めちまうから、お前も不貞腐れてねえでそっちの嬢ちゃんから離れて座れ」


「ぶぅー……」


 反論してきたマリーナを軽くあしらいながら、親父さんは近くからイスを持ってきて座り、マリーナも頬を膨らませたまま席についた。

4章開始です



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