第32話 飛ばされた者、追い出された者 3
3章部分終わりです
「おーい大丈夫か、2人とも」
カティアとリサラがいるテーブルに近寄りながら、俺は2人に向けて声を掛ける。
「うぅん……。あぁ、センパイですか」
「私達は、この通り全然大丈夫ですよ……」
青褪めた表情でカティアとリサラはのろのろと顔を上げる。
誰の目から見ても2人は大丈夫に見えなかった。
「全く大丈夫には見えないんだが……。ほら、これで少しは気分が楽になったか?」
フィリアと一緒に席に着きながら、俺はぐったりしている2人に酔い覚ましとしてクリアの魔法を唱えると、最初は青褪めた表情をしていた2人の表情も次第に良くなっていった。
「……ありがとうございます。お陰で気分はだいぶ楽になりました」
そう答えたものの、俺とは視線を合わせようとせず、何やら不満そうに頬を膨らませるカティア。
一体何が不満なのかと疑問に思っていると、カティアの隣に座るリサラが口を開いた。
「それよりも……室長はそちらの女性とはどういった関係なんですか?」
「ん?」
リサラが俺の横に座っているフィリアへと視線を向け、それに倣うように俺もフィリアに視線を向ける。
あ……。そういえば、2人にはまだちゃんとフィリアを紹介していなかった。
何かあったっけと思ったが、そういう事か。
「わ、私……?」
当のフィリアはというと、状況が分からないといった様子で自分の顔を指差しながら、助けを求めるように俺に視線を向けた。
「フィリア。2人に自己紹介を頼む」
そう伝えると、フィリアは納得した様子でポンと手を叩いた。
「あ、そっか。そういえばまだ自己紹介もしてなかったね。こほん、私の名前はフィリア・マインツ。ディーくんとは家が近所で子供の頃からの付き合いで、いわゆる幼馴染ってやつです。……えっと、こんな感じで大丈夫かな?」
簡単な自己紹介を終えたフィリアが不安そうにリサラに尋ねる。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます……」
「それじゃあ、今度は私から質問なんだけど……2人はディーくんとどういう関係なのかな?」
リサラの返事を聞くと、今度はフィリアがほんの少し前に身を乗り出しながらカティアとリサラに尋ねた。
「えっと、私達は……って、まずは自己紹介をしてからですね。私の名前はリサラ・グラスフィールです。それで、私の隣にいるのがカティアです。簡単に言えば、私達は上司と部下の関係です」
「そうなの、ディーくん?」
「あぁ、リサラの言った通りだ。2人は俺の部下だよ」
こちらに確認の視線を向けてきたフィリアに俺は小さく頷き返す。
少し訂正を入れるなら、今はもう上司と部下ではなく元上司と元部下の関係になるが……そこはあまり気にすることでもないだろう。誤差のようなものである。
「ふーん、そうだったんだ〜……まぁ、ディーくんの事だからそうだよね。うんうん」
再び席に座りなおし、フィリアは小さな声で呟きながら、どこか安心した様子で何度も頷く。
……が、そこでふと何かを思い出したみたいにフィリアはピタリと動きを止め、急に俺の方に詰め寄りながら慌てた様子で口を開いた。
「──って、そういえばすっかり聞き忘れてたんだけど、そもそもどうして王都にいるはずのディーくんがこの町にいるの!?」
「あぁ、その事か……」
正直に答えるか少し……いや、かなり迷ったが、俺はフィリアの問いかけに誤魔化したりせずに素直に答える事にした。
今まで1度たりともフィリアに嘘を貫き通せたことが無いからだった。
「仕事をクビになったんだよ。それで、色々あってこの町に来た」
「ええっ!? クビになったって……魔導研究所を?」
「あぁ」
流石に俺の返事が予想外の内容だったのか、フィリアは驚きの声をあげて、何度もパチパチと瞬きを繰り返す。
「ま、俺の事は一旦置いといてだ……。今度は俺からフィリアに聞くけど、なんで王城に勤めているはずの宮廷魔導師のお前がこんな所に居るんだよ」
「はうっ……!」
俺の指摘にフィリアは変な声をあげて固まった。
黙って俺達の話を見守っていたカティアとリサラは驚きの視線をフィリアへと向ける。
「そ、それは……えっと、その、あのー……」
あちこちに視線を彷徨わせるフィリアをそのままジーッと見つめていると、やがてフィリアは観念した様子で肩を落とした。
「はぁ……ディーくんには隠し事しようとしても、どうせすぐバレちゃうもんね。うん、私も正直に言うよ」
そして、顔を上げたフィリアは真面目な表情で口を開いた。
「えっと、簡単に言っちゃうとね……王都からこの町に飛ばされちゃった」
柄にもなく、てへっと可愛らしく舌を小さく出し、首を傾けながら、フィリアは信じられない言葉を口にしたのだった。
次話から4章に入ります
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