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第31話 飛ばされた者、追い出された者 2

色々書いてたら元部下と幼馴染の対面の話まで持っていけませんでした

「……着替え終わったから、もうこっちを向いてもいいよ、ディーくん」


 しゅるしゅると衣擦れの音が聞こえなくなると、フィリアから声を掛けられる。

 俺はゆっくりとフィリアの方に向き直ると、そこにはちゃんと服を着直して、恥ずかしそうに髪を弄りながら隣のベッドに座るフィリアの姿があった。


「その、ごめんねディーくん。色々と迷惑かけちゃったよね……」


「謝らなくていいって。迷惑かけた回数で言ったら、フィリアより俺の方が圧倒的に多いんだからな」


 肩を落としてしょんぼりと落ち込むフィリアを励ますように俺は言葉を返す。


「それにしても、フィリアが酒に酔うとあんな感じになるんだな。正直ビックリした」


「っ~~~!! あ、あれは忘れてよ! あれは違うの! その、あの……! うぅ〜、他にも色々と忘れてよぉ……!」


 そのまま素直な感想を伝えると、フィリアは頬をどんどん赤く染めながら、近くにあった枕をギュッと抱きしめ、涙目で俺に訴えた。


 どうやら余計な一言を言ってしまったみたいである。


「わ、分かったよ……。まぁ、忘れる努力はする」


 フィリアにそう答えはしたけれど、もう脳裏にバッチリと焼き付けてしまったから、忘れるのは難しかった。

 というか、俺だって1人の男なのだから、あんな光景を簡単に忘れられるわけが無かった。


 それを口にしたら、またフィリアに怒られそうだから絶対に言わないけれど。

 それこそ、今度は強引にこちらの記憶を消しにくるかもしれない。


「うぅ~、どうせディーくんに見られるならもっと可愛い下着にしておけば良かったぁ……」


「ふぅ……。ん? 何か言ったか、フィリア?」


 フィリアから視線を外して肩の力を大きく抜いてリラックスしている間に、隣のベッドでごろんと寝転がったフィリアが何か言葉を呟いた気がした。

 かなり小さな声だったので見事に聞き逃してしまった。


「な、なんでもない! なんでもないよ! ディーくんは気にしないで……!」


 何を言っていたのか尋ねると、慌てた様子でベッドから起き上がったフィリアは、顔を真っ赤にしながら両手をブンブンと横に振る。


 なんだか誤魔化されているような気もするが、フィリアがなんでもないと言っているなら気にしなくていいのだろう。

 俺はフィリアにそれ以上は特に追求しなかった。


「そ、それより! ディーくんがベッドに運んでくれたのは分かったけど、そもそもどうしてディーくんがこのフェリトアの町に居るの? それを教えてよ!」


 すると、今度はフィリアがかなり強引に新たな話題を切り出してきた。


「ん? あぁー、それはだな──」


 こちらの事情をフィリアに説明しようとした時だった。

 言葉を遮るように俺のお腹からぐるる〜と凄い大きな音が鳴った。


「……」


「……」


 余りの音の大きさに、俺もフィリアも数秒間固まってしまう。


 そういえば、昨夜寝ちゃったおかげで夕食も食べれなかった事を思い出した。

 朝昼晩と丸一日何も食べていないのだから、お腹の音も大きくなるのも仕方なかった。


「え、えっと、凄いお腹の音だね……。その、まずは朝ごはんにした方が良さそうかな?」


 苦笑いを浮かべるフィリアに返事をするように、ぐぅうう〜ともう一度俺のお腹が鳴る。


「……あぁ、そうしてくれるととても助かる」


 俺は耳まで熱くなるのを感じながら、これ以上はもう鳴らないでくれと思いながら、両手でお腹を抑えたままフィリアの提案に答える。


「それじゃあ1階に行こっか、ディーくん!」


 そして、俺とフィリアは朝食を求めて1階に向かったのだった。




 ◇




「あ、お兄さんとお姉さんも起きてきたんだ。おっはよ〜!」


 1階に降りてカウンター席の方へ歩いていると、両手に出来立ての朝食を乗せたお皿を手にしたマリーナに出迎えられる。朝から凄い元気である。


「おはよう、マリーナちゃん」


「あぁ、おはよう。マリーナ」


「朝食食べるなら空いてる席に適当に座っちゃってね〜! あとで私が注文聞きにいくから〜!」


「あ、あぁ。うん」


 軽く挨拶を交わし、スカートを翻しながら言葉を言い終えたマリーナは、料理を注文した客の元へと運んでいった。


 なんというか小さな嵐みたいだった。

 お皿をひっくり返したり、こけたりしないのだろうかと不安になってしまったが、あの軽い身のこなしなら大丈夫か。心配の必要はないだろう。


「お、あんたらも起きてきたか。昨夜はよく眠れたか? 暫くすれば降りてくるかと思ったら、結局降りて来なったから何かあったのかと思ったぜ」


 マリーナと入れ替わるように、今度は厨房から親父さんが姿を見せた。


「心配かけたみたいですみません。色々と事故もあったりしてそのまま朝まで寝ちゃってました。……ところで、俺と一緒にいた2人はもう起きてますか?」


「あぁ、兄ちゃんの連れの嬢ちゃん達なら向こうのテーブルで突っ伏してるぜ」


 親父さんが指差した方に視線を向けると、見覚えのある2人が揃いも揃ってテーブルの上にだらんと突っ伏していた。


「……なんか具合悪そうに見えるんですけど、昨夜あいつらに何かあったんです?」


「あー、ありゃたぶん二日酔いだろうな。昨夜、あっちの嬢ちゃん達もかなりハイペースで酒を飲んでたからな」


 カティアとリサラの方を指差しながら親父さんに尋ねると、そんな言葉が返ってくる。


 2人ともあんまりお酒を飲むようなタイプではないと思っていただけに意外だ。

 カティアはともかくとして、あのお堅くて真面目なリサラまでハイペースにお酒を飲むなんて一体何があったのだろうか。


「ま、気になるんなら声を掛けてきたらどうだ? たぶんあの嬢ちゃん達も昨夜の事を知りたいだろうしな」


「そうですね……そうします。それじゃあ、フィリアもちょっとついて来てくれ」


「あ、うん。分かったよ」


 俺はフィリアを連れて、カティアとリサラが座っているテーブルに向かった。

次話こそ対面の話

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