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第30話 飛ばされた者、追い出された者 1

「ん、うぅ……?」


 明るい日の光を感じて、自然と目が覚めた。

 なんだかぼんやりとしている頭でゆっくりと目を開けて、俺は視界に入ってきた光景に頭が固まった。


「すぅ、すぅ……んぅ、はぁ……」


「…………」


 俺の左腕を枕にしながら銀髪の美少女が、密着するような距離で気持ちよさそうに眠っていた。

 白いシャツだけを羽織って、下着姿同然で眠っている少女は、何かいい夢でも見ているのか時折にへへとにやけるような声を漏らす。


「……あぁ、そうだった」


 俺はそんな少女の寝顔を眺めていて、だんだんと昨夜の出来事を思い出してきた。

 一瞬かなり焦って何も考えられなくなってしまったが、ホッと安心して肩の力を抜きながら息を吐いていく。


 昨夜、偶然この店で出会ったフィリアを2階のこの部屋に運んだら、いきなり服を脱ぎ始めたので強引に魔法(スリープ)で寝かせようとしたら、フィリアに魔法を跳ね返されてしまい、逆に俺が寝てしまったのだった。


「……おい、フィリア。起きろ。起きてくれ」


 シャツの隙間からチラリと見えるフィリアの素肌や下着などをジッと見つめないように、なるべくフィリアの寝顔を見つめるように努めながら声を掛ける。

 左腕は完全に枕にされてしまっていて動かせないので、俺は自由な右手を伸ばしてフィリアの体を揺すっていく。


「ん、んぅ、なぁに〜……まだ寝かせてよぉ」


「うっ、ちょ、ちょっと待て……!?」


 すると、フィリアは鬱陶しそうに俺の右手を払いのけながら、そのままごろんと体を動かして俺に抱きつくように手を回してきた。


「っ……」


 フィリアが俺の体に抱きついてきたことで、横向きに寝ていた俺はフィリアに押し倒されるように仰向けで寝る体勢になり、その上にフィリアが乗っかってきたような状況となる。


「ん~、むにゃむにゃ……」


 腕枕をしていた時よりも、フィリアの体のあちこちが密着していて、色々と宜しくない状況である。

 だが、下手に動けばもっと大変なことになってしまいそうで、動きたくても動けない状況だった。


「ふわぁ〜……んぅ?」


 身動きが取れないまま、どうすればいいのか頭をフル回転させていると、フィリアが大きな欠伸を零しながら遂に目を覚ました。


「……」


「……」


 そのままお互いに言葉も発さずに数秒間じーっと見つめ合い、そこから少し遅れる形でフィリアの顔が赤く染まっていく。


「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


 そして、とうとう我慢の限界を迎えたのか、ボンっと顔を真っ赤にしながら、フィリアは慌てて俺の上から飛び退いて、隣のベッドの上に逃げ込んだ。


「なっ、ななっ……! な、なんでディーくんが私の部屋にいるの!?」


「なんでって……昨夜の事は何も覚えていないのか?」


「…………………えっ?」


 フィリアが退いてくれたお陰で漸く動けるようになった俺は、ゆっくりと体を起こして大きく伸びをしながら、こちらを指差すフィリアに尋ねると、当のフィリアは石のように固まってしまった。


 フィリアのこの反応を見ると、どうやら本当に昨夜の事は何も覚えていなさそうである。


「ゆ、昨夜!? だっ、だって昨夜はいつものようにここでお酒を飲んでて、それでそれでぇ〜……!」


 対するフィリアはというと、パニックになったみたいに両手を頭に乗せて、何度も視線を右に左に動かす。

 そのおかげでフィリアが羽織っていた白のシャツも一緒に右に左にひらひらと舞って、シャツで隠れていたフィリアの下着や素肌が俺の視界に何度も入ってきた。


「あ、あー……それとフィリア。昨夜の事を思い出すのも良いんだが、服もちゃんと着てくれると助かる……」


「ふ……く……?」


 視界を手で覆って、体を横に向けながらフィリアに伝えると、フィリアは両手を頭の上に置いたまま視線を下に向けた。


「っ〜〜〜〜〜!? な、ななななんで私こんな格好してるの……!?」


 そして、自分の格好に気付いたフィリアは慌てて近くにあった掛け布団を抱き寄せ、再びパニックになってしまった。


 あれ。もしかしたら余計な一言を言ってしまったのかもしれない。

 しかし、それに気付いた時にはもう色々と遅かった。


「も、ももも、もしかして私とうとうディーくんと……!? 故郷のお父さんとお母さんになんて報告したら……!」


 フィリアは気が動転した様子で目をぐるぐると回して、頭から大量の湯気を出し、体をふらふらと揺らす。


「お、おい、フィリア? 大丈夫か……?」


「はわっ、あわっ、あわわわわわ──! きゅう〜……」


 流石に心配になってフィリアに声を掛けた瞬間、とうとう頭の処理が追いつかなくなったのか、フィリアがパタリとベッドに倒れてしまった。


「えっ、ちょ……!? おい、フィリア!?」


 俺はベッドに倒れて目を回しているフィリアに慌てて駆け寄ったのだった。

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