第29話 再会の幼馴染 4
ディラルトがフィリアを2階の部屋まで運び、そこで見事に魔法を跳ね返されて眠りに落ちてしまった頃、カティアとリサラが待っている1階の方はというと……。
「う〜、センパイが遅いですー!」
「いったい何をやってるんですか、室長はぁ……」
カウンター席に並んで座って提供されたお酒をちびちびと飲みつつ、カティアとリサラは落ち着かない様子で何度も2階を気にしながら愚痴をこぼしていた。
空腹状態なのにお酒をどんどん飲み進めたせいか、早くも2人の頬は赤くなり始めていた。
「そのうち待ってりゃあの兄ちゃんも降りて来るんじゃねえか? ほら、嬢ちゃん達。とりあえず前菜のサラダが出来たぞ」
木製のボウルに盛られた新鮮な魚介類と葉物野菜のサラダを片手に、厨房からマリーナの親父さんが姿を見せる。
「たっだいまー! 言われた通り、お姉さんの部屋の様子見てきたよー」
すると、マリーナの親父さんが厨房から姿を見せたのと同じタイミングで、2階の様子を見に行くように言われていたマリーナが戻ってきた。
「おー、戻ってきたかマリーナ。2階のあの嬢ちゃんの部屋はどうだったんだ?」
尋ねられたマリーナは首を横に振りながら話し始める。
「んーん。鍵が掛かってたからドアをノックして声も掛けたけど、中からは特に反応はなかったよ。ベッドが揺れる音とかも聞こえなかったから、2人とも寝ちゃってたりするんじゃないかな~?」
「うちの壁は防音とか特にしてねえから、少しでも大きな音を立てたり、声を上げたりすれば、隣の部屋や廊下には筒抜けだもんなぁ。それが聞こえねえってことは寝ちまってるって考えるべきか……。でもあの酔っ払った嬢ちゃんはともかくとして、戻ってくるって言ってたあの兄ちゃんまで寝ちまうとは少しビックリだな」
調理をする為に流しで手を洗い直し、天井を見上げながらマリーナの親父さんは率直な感想を口にする。
「んくっ、んく……ぷはぁ! おっちゃん、お酒のおかわりぃ……!」
それを聞いたカティアは気を紛らわすようにジョッキをグイッとあおり、ダンっと音を立てるようにテーブルに置いて、なくなってしまった酒の追加を求める。
「おいおい、そんな早いペースで飲んでいって大丈夫なのか?」
「別に、大丈夫れすよ~。これでも……お酒には強いんれすから……ひっく」
心配するマリーナの親父さんの声を聞き流し、顔を真っ赤にしたカティアはしゃっくりをしながら言葉を返す。
「俺には全然大丈夫に見えねえんだがな……。おい、緑の嬢ちゃんの方からも何とか言ってやってくれねえか?」
カティアのふらふらとした言葉を聞いた親父さんは、カティアの横に座るリサラに助けを求めた。
「……嬢ちゃん?」
しかし、マリーナの親父さんがリサラに声を掛けた瞬間、ふにゃんと崩れ落ちるようにリサラはテーブルに体を預けた。
「んぅ……カティアが、大丈夫と言ってるならぁ……らいりょうぶれすよぉ……。それに〜何かあったら、しつちょーにぜーんぶ責任取って貰えばいいんれすよ〜! あはは〜っ!」
そして、ゆっくりと体を起こしたリサラは明るく楽しそうな声を上げる。
「……ダメだ、こっちも酔ってやがった」
「2人とも見事に酔っちゃってるねー……」
誰が見ても完全に酔っ払いな2人の様子に苦笑いを浮かべながら、マリーナが2人分の水を用意していく。
「はぁ、なんかあの嬢ちゃんが更に2人増えた気分だな」
「あはは、だねー……」
新たに酔っ払い2人の相手をする事になってしまい、マーメイ親子は揃って大きな溜め息を吐くのだった。
場面が大きく変わらないので特にサブタイトルは変えませんでした
次話からまたディラルト視点になります




