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第3話 エルメイン城にて 2

「リーゼロッテ様ならこちらですよ、エレオノーラ様」


「えっ、ありがとうござい──って、でぃ、ディラルト様!?」


 リーゼロッテ様を抱っこしながら、 前方にいる女性に声を掛けると、こちらを振り向いた白のドレス姿の美少女は、俺の事を見るや否やビクッとその場で飛び上がった。


 いきなり背後から話し掛けてしまったから、ちょっと驚かせてしまっただろうか。


 彼女の名前はエレオノーラ・ファン・エルメイン。年齢は17歳。

 第二王女であるリーゼロッテ様の姉であり、このエルメイン王国第一王女なのである。

 長く美しいプラチナブロンドの髪に、真っ白なドレスに身を包んだ彼女の姿は、今日も見惚れてしまいそうになるくらい綺麗だった。


「お久しぶりです。エレオノーラ様」


「あ、ああああの、えっと……って、リーゼ! 何をしているのですか!?」


「何をしていると言われましても、別にこれはいつもの事ではありませんかエレオノーラ姉様」


 そう言ってリーゼロッテ様はエレオノーラ様に対して悪戯っぽく笑みを浮かべながら、再び俺の胸に顔をこてんと預けた。


「リ、リーゼ! なんて羨ま──じゃなくて、なんてはしたない事をしているのですか! ディラルト様も早くリーゼを下ろしてください!」


 それを見たエレオノーラ様が慌てたような声をあげ、俺の側に近寄ってくる。


 強引にリーゼロッテ様を下ろさせようとしない辺り、エレオノーラ様の育ちの良さがよく分かる。流石はお姫様である。


「リーゼロッテ様、エレオノーラ様がこう仰ってますし下ろしますからね」


「はーい」


 俺はお姫様抱っこしていたリーゼロッテ様を静かに床におろして、側にやってきたエレオノーラ様と向き合う。


「もう、ディラルト様はいつもいつもリーゼに対して甘すぎます! ……リーゼばっかりずるいです」


「ははは……申し訳ありません、エレオノーラ様」


 エレオノーラ様が仰ったように、リーゼロッテ様に対して甘いのは自覚しているので、俺はただ謝ることしかできなかった。

 ただ、リーゼロッテ様の言う事を聞いてしまうのは、逆らえないからというのが一番だけど……。


 そんな事を考えていると、腰の辺りにボフッとした衝撃を感じた。

 視線を向けると、リーゼロッテ様が俺の腰に腕を回しながら抱き着いてきていた。


「それならエレオノーラ姉様もディラルト様に甘えてみれば良いではありませんか。ディラルト様も構いませんよね?」


「リーゼ!? なっ、ななな、何を言って……!」


 リーゼロッテ様の言葉にエレオノーラ様は顔を真っ赤に染めながらこちらを見つめ、あちこちに視線を彷徨わせる。


「……そうですね。エレオノーラ様のお願いでしたら、私はいつでも大歓迎ですよ」


「ディラルト様まで!?」


 ほんの少し考える素振りを見せてから、俺は両手を広げながらエレオノーラ様にニコニコと笑顔で言葉を返した。


 エレオノーラ様なら、リーゼロッテ様のような無茶な事も言わないだろうし安心である。


「ほら、エレオノーラ姉様。ディラルト様もこう言ってますし、いい機会です」


「え、えっと、あっ、ああああの! っ〜〜〜〜!」


 リーゼロッテ様に急かされて更に顔を赤く染めながら、おろおろとしていたエレオノーラ様は意を決したように口を開いた。


「い、今は……保留にさせてください」


 そして、エレオノーラ様は今にも消え入りそうな声でぽつりと呟いた。

 俺は腰に抱きついているリーゼロッテ様と一度視線を合わせてから、ぷるぷると震えているエレオノーラ様に話しかけた。


「分かりました。ではお願いが決まったら私に教えてください、エレオノーラ様」


「ディラルト様、ディラルト様。もちろんそれは私のお願いも聞いてくれるのですよね?」


「……いえ、あの、リーゼロッテ様のお願いはいつも聞いてると思うんですけど」


 俺の服をくいくいっと引っ張るリーゼロッテ様にそう答えてから、俺は観念したようにガクリと肩を落とす。

 王族に逆らう事など、平民の俺に出来るわけがなかった。




 ◇




「──さて、と……名残惜しいですが、そろそろ私は研究所の方に戻ろうと思います」


「えーっ! もう行ってしまうんですかディラルト様。もう少し私達とお話しましょうよ」


 気を取り直すように話を切り出すと、離れたくないと言わんばかりにピッタリと俺の腰にくっつくリーゼロッテ様。


「リーゼ、これ以上ディラルト様を困らせるのではありません。お忙しいところを申し訳ありません、ディラルト様」


「本当は私も御二人ともっと一緒に居たいのですけどね。お恥ずかしい話なのですが、ちょっと困った状況になりまして……」


 俺はリーゼロッテ様の滑らかな金髪を優しく撫でながら、2人に自嘲気味に乾いた笑みを向ける。

 すると、エレオノーラ様が心配そうな表情で俺の手を取った。


「それは大丈夫なのですか? ディラルト様、私に何か力になれる事はありますか?」


「大丈夫ですよ、エレオノーラ様。困った状況と言っても、いつもより少し大変なだけですから」


 俺の左手を握っているエレオノーラ様の手に、空いていた右手を重ねながら断る。


 正直な話、借りれるならエレオノーラ様の力を借りたい。

 だが、そうすれば間違いなくエレオノーラ様にも貴族からの批判の矛先が向いてしまう。平民である俺のせいでそんな事になるのは避けたかった。


「それなら良いのですが……。あの、困った時は何でも言ってくださいね」


「リーゼも! リーゼもディラルト様の力になります!」


「ありがとうございます。御二人のお気持ちだけで十分頑張れますよ」


 そう2人に伝えて、俺は研究所に戻る事にしたのだった。

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