第25話 港町での出会い 3
寝泊り出来る場所が無事に決まって安心したからなのか、俺のお腹からぐうぅ~と大きな音が鳴った。
すると、それに続くように俺の後ろからもお腹の音がふたつ聴こえてきた。
「センパイのお腹の音のせいで私達のお腹まで鳴っちゃったじゃないですかー!」
後ろを振り返ると、カティアがお腹を押さえながらぷんすかと俺に文句を言ってきて、リサラもカティアと同じようにお腹を押さえながら、文句は口にしなかったものの目が訴えていた。
これは俺が悪いのだろうか。なんかちょっと納得いかない。
「お兄さん達、お腹空いてるの?」
「空いてるか空いてないかで言ったら、めちゃくちゃお腹は空いてるね。思い返してみれば昨日の夜から何も食べてないんだ」
予想もしてなかったであろう出来事にポカンとした表情を浮かべる少女に、俺は自分のお腹を摩りながら答える。
今日は朝昼と寝過ごしたから食事をする時間なんてなかったし、この町に着いてからは宿探しの事しか考えてなかったから、食事のことなんてすっかり忘れていた。
おまけにここは食事処なのもあって美味しそうな匂いで満たされているから、空腹のお腹が鳴ってしまうのも仕方ないだろう。
「それだったら〜、ここで晩ご飯食べてかない? お代はちゃんと頂くけど、味の方はちゃんと保証するよ!」
名案を思いついたと言わんばかりに両手をパンと合わせて、少し前屈みになりながらこちらにパチっとウインクをする少女。
てっきりサービスでもしてくれるのかと思ったらそれは違った。しっかりしている子である。
「あ、因みに私の名前はマリーナ・マーメイ。この「海の宝石」の看板娘をやってる17歳でーす! よろしくね!」
付け加えるようにマリーナと名乗った金髪の少女は、親しげな笑みをこちらに向ける。
「あ、あぁ、よろしく……」
ま、まだ17歳なのこの子……。
まずそこに驚きである。
凄く大人っぽい体つきをしているから、カティアやリサラと同い年か、少し年下くらいだと思っていたら、2人の年齢よりも4つも年下だった。
最近の子は発育が良いとよく聞くけど、ここまで良いとは驚きであ──。
「セーンパイ。どーこを見てるんですか~?」
「っ……!? い、いや! べ、別に何も見てないけど……!?」
背筋が凍るような視線を急に背後から感じて、俺は慌ててマリーナから視線を外し、背筋をピンと伸ばした。
「あはは、お兄さーん。私は見られるのも仕事の一部だと思ってるから別にいいけど、あんまり女の子の体をじろじろ見るのはやめた方がいいと思うよ~?」
対するマリーナはというと、特に気にしている様子もなく、固まってしまった俺を揶揄う様に笑顔を見せた。
俺は両手をブンブンと振りながらマリーナに謝罪の言葉を伝える。
「あ、あぁ、ごめん! これからは気をつける……!」
マリーナが本気で怒っている様子もなくて、俺は少しだけホッとした。
ただまぁ、流石にこれ以上マリーナの事を見つめるのはやめておいた方が良いだろう。今度こそ嫌われてしまうかもしれない。
今後もここを利用する可能性はあるのだから、店側にこれ以上悪い印象を与えてしまうのは避けたかった。
「おぉーい、マリーナちゃん! こっちに酒の追加を頼むー!」
と、ここで奥のテーブル席からこちらに大きな声が飛んできた。どうやら酒の追加の希望らしい。
……って、既にテーブルには空になった酒瓶がいっぱいあるのに、あそこの人達はまだまだ飲むつもりなのか。
流石は漁師って感じだろうか。まさに底無しである。
「はぁーい、ちょっと待っててー! ……ごめんね、お兄さん達。少しだけ待っててもらえる? あっちのおじさん達にお酒を持っていったら、すぐに席に案内するから!」
「あぁ、うん。分かったよ」
酒を求める声に返事をしたマリーナは、俺達にも一言告げてからカウンター席の近くにある冷蔵庫の中から酒瓶を数本取り出し、それを漁師達が座っているテーブルへと持っていくのだった。




