第24話 港町での出会い 2
ストレージの中から取り出したランタンを片手に持って薄暗い夜道を照らし、俺達は町の中心部を目指してのんびりと話し合いをしながら歩いていた。
ただ歩くだけというのも退屈だったので、適当な雑談でもしようという事になったのだ。
「町の中心部にもなってくると、壊れていない街灯の方が増えてきましたね。ところどころ点いていないのもありますが、その数も町の外側に比べたらかなり減りましたし、ほとんどが点いていなくても余り気にならない場所にありますね」
「見た感じ中心部の街灯はちゃんと誰かが修理してるみたいですねー。放置してる訳じゃないとすると、町の外側の街灯が壊れたものばかりになってるのは、単純に修理できる人手とかが足りてないんですかねー?」
当然話題はこの町の様子についてである。
それくらいしか長続きして興味が湧くような話題がなかったのだ。
「でも、魔術師が不足するなんて事ってある? 街灯に使われる程度の術式ならそんな難しくないだろうし、ある程度の知識があれば、魔道具専門の魔術師じゃなくても簡単に修理できると思うけど」
「私もその意見には概ね同意しますけど……。そうなってないからこそ、この町はこんな状況になってしまってるんじゃないです?」
「……それもそっか。何が起きてるんだろうねー、この町」
「領主も何してるんですかねー。流石にこの状況を放置したりはしないと思うんですけどね……。魔術師がいないって事になってたら、後々大変なことになっちゃいますし──」
そんな感じでこの町の状況についての話を続けながら歩いていると、何かに気付いたリサラが足を止めた。
「あ、2人とも。あそこは宿屋じゃないでしょうか?」
リサラが指差した方に視線を向けると、そこには「海の宝石」と看板に書かれた二階建ての建物があった。
建物の方に近づいていくと、宴会かバカ騒ぎでもしているのか、中からは賑やかな声が聞こえてくる。
「ここは1階が食事処で、2階で宿屋をやってるみたいだね。他の宿をまた探すのも面倒だし、泊るのはここにしよっか」
建物の前にある看板に目を通すと、ここは宿屋だけでなく食事もできるようだった。
どうせなら夕食もここで取ってしまうのもありかもしれない。
「了解です」
「はーい! ここは部屋が空いてるといいですね〜」
「それじゃ、行ってみよう」
♢
建物の中に入ると、奥にあるテーブル席の方で漁師らしきガタイの良いおっさん達が楽しそうに料理と酒を飲み交わしていた。
どうやら店の外で聞こえたのは、彼らの声だったようだ。
「あ、いらっしゃいませ〜!」
空席となったテーブルの片付けをしていた可愛らしい給仕服を見にまとった少女が、俺達に気付いてすぐに側にやって来た。
「お兄さん達、この町じゃ見たことない顔だけど観光客?」
「うーん……まぁ、そんな感じかな。外の看板を見たんだけど、ここって1階が食事処で2階が宿屋であってるかな?」
この店の看板娘だろうか。可愛くて結構若い金髪の少女だった。
カティアやリサラと同じくらいの年齢か、ひょっとしたら2人よりも若いんじゃないだろうか。
「うん、それで合ってるよ。まぁ、あそこで毎日のように酒飲んでるおじさん達のせいでこの町の人には酒場だと思われちゃってるけどね~」
やって来た少女は現在進行形で酒を飲み交わしている男達に視線を向けて、やれやれといった様子で肩を落としながら呟いた。
そして、気を取り直すように言葉を続ける。
「それで、お兄さん達はうちに食事をしに来たの? それとも泊まりに?」
「とりあえず泊まり目的だね。ここはまだ空き部屋があるかな……?」
実はこの建物に来るまでに他の宿屋を3軒ほど訪れていたのだが、その全てが満室で泊まれなかったのだ。
そのおかげもあって、空室があるかを聞くのも慎重になってしまっていた。今回はどうだろうか。
「ちょっと待っててね〜」
そう言って少女は宿帳を確かめにカウンターの方に向かい、すぐにこちらに戻ってきた。
「部屋の空きはちょうど一部屋しかないねー。一応ベッドが2つある部屋だけどどうする?」
流石に一緒のベッドで寝る訳にはいかないし、カティアとリサラをベッドで寝かせて俺が床かイスで寝ればいいし、最悪俺だけ朝になるまで適当に外で時間を潰してればいいだろう。
一応後ろにいる2人にも視線を向けてみたが、特に何も言ってこなかったので問題はないと思っていい事にした。
「うーん……また他の宿を探し直すのも面倒だし、今日はここに泊ろうかな」
「はーい。それでお兄さん達は何日泊るつもりかな? 因みに料金は1人1泊300エルツだからよろしくね〜!」
パラパラと宿帳をめくりながら、ニコニコとした笑顔を浮かべた少女が尋ねてくる。
「そっか。じゃあ、とりあえず1泊だけお願い出来るかな? その後も泊まるかは、今後の状況次第って感じで……」
「うん、分かったよ〜。それじゃあ、3人分で料金は900エルツになりまーす!」
「900エルツね。じゃあ、これでお願い」
俺は少女に財布から取り出した銀貨を一枚渡す。
「銀貨一枚だね。はーい、お釣りの100エルツと部屋の鍵。部屋は2階の一番奥の部屋だからね〜」
お釣りの銅貨1枚と部屋の鍵を少女から受け取り、俺は銅貨を財布にしまった。
何軒か宿屋を回る羽目になったが、俺達は無事に当初の目的であった宿に泊まる事が出来たのだった。
お釣りの部分をちょっと修正しました
銅貨10枚 → 銅貨1枚




