第20話 魔動車を飛ばして 3
「とりあえず、ベッドはこんな感じでいいかなー」
無事に魔動車の車内にベッドを作り終えて一息ついていると、ハイウルフの氷像の近くで待機していたカティアとリサラが側にやって来た。
「……見た目はちゃんとしたベッドのようですね」
「ほー、なんか思ってたよりもずっとまともでマットレスもかなり柔らかいですね。さて、肝心の寝心地の方はどれどれ〜!」
リサラが品定めするようにベッド全体を見回し、その隣ではカティアがポンポンとマットレスの感触を確かめてから、靴を脱ぎ捨てると同時に完成したばかりのベッドにボフッと飛び込んだ。
「わは〜、とってもふかふかで気持ちいいですね。少しでも気を抜いたら、このまま朝までぐっすり寝ちゃいそうですよ〜」
そのままカティアはくつろぐようにぐーっと体を伸ばしてから、ごろんと横に寝転がって、仰向けの体勢で全身の力を抜いていった。
「別にそのまま寝ちゃっていいよ? 徹夜する必要ももうなくなったから後は寝るだけなんだし」
「ふわぁ……もう少し起きてようかと思いましたが、そうしますかね。リサラも立ってないで早くこっちにおいでよ〜。すっごいよ、このベッド〜」
大きな欠伸を零しながら空いているスペースを叩き、カティアはとても眠そうにリサラの名前を呼ぶ。
リサラはそんなカティアの隣に横になり、マットレスの柔らかな感触に驚きながらも、ベッドに全身を預けていった。
「これは、確かに想像以上の柔らかさですね……。カティアの言う通り、気を抜いたら……本当に、寝て──」
だんだんとリサラの声が小さく途切れ途切れになっていき、やがて完全に聞こえなくなる。
「……あれ、リサラ?」
どうしたのか気になって視線を向けてみると、リサラは静かに寝息を立て始めていた。
「あっという間に寝ちゃいましたね。リサラもかなり疲れてたみたいですね〜」
「今日は本当に色んな事があったからねー。疲れて寝ちゃうのも仕方ないか。俺もめっちゃ疲れたし」
カティアと一緒にリサラの寝顔を覗きながら、リサラを起こさないように囁くような小さな声で言葉を交わす。
今日は本当に色んな事があった。
研究室が解散する事になったと思えば、いきなりクビを言い渡されて。そこから王都に出てみれば、どういう訳だか邪魔者のように色んな店から出入り禁止扱いになっていて……。
「いや〜、人生って色々ありますねー」
「……本当にね。色々ありすぎて困るくらいだよ」
カティアの言葉に苦笑いしながら肩を大きく落とし、俺は一足先に夢の世界に旅立ってしまったリサラにそっと毛布をかけていく。
「カティアも眠いなら早く寝ちゃいなよ? あ、これはカティアの毛布ね」
「はーい……ありがとうございます〜」
カティアにも毛布を渡すと、もぞもぞと受け取ったカティアはそれを抱き枕のように抱きしめながら、ごろんと寝返りを打った。
抱き枕代わりで渡したつもりじゃないのだが……まぁ、いいか。
俺はなるべく音を立てないよう静かに魔動車のバックドアを閉じた。
「ふぅ。さて、と……俺も寝る準備をしないと」
夜空に浮かぶ月を見上げながら、小さく息を吐きだす。
今後の事を色々と考えながら、俺は再び魔動車の運転席の方に向かう。
「それじゃ、おやすみ」
そして、静かにドアを開けて運転席に座り、俺は毛布にくるまりながら目を閉じた。




