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第18話 魔動車を飛ばして 1

「ちょ、ちょっと室長! 何なんですかこれ! 何なんですかこれはぁあああああああ!!」


 ちょっと前まで静かだった車内に、泣き叫ぶリサラの悲鳴が響き渡る。

 魔動車に乗り込んだ俺達は、王都から港町フェリトアを目指し、静かな夜道を快調に飛ばしていた。


「なんでこんな速さで走ってるんですか!? おかしいです! おかしいですよ……!」


「なんでって……。それは馬車より速く走れるように作ったからだよ?」


「バカなんですか!? なんでそんな命知らずな設計をしたんですかぁ!」


 魔動車を運転しながらリサラの質問に答えると、目の前の座席にしがみついて涙目になっているリサラから猛抗議を受ける。


 どうやらリサラは魔動車のあまりの速さにビックリしているらしい。

 それにしたって酷い言われようである。ちゃんと安全面だって考慮して設計したというのに。


「順調ですね~、センパイ。この調子なら、明日の朝を迎えるまでにはフェリトアに着いてるんじゃないです?」


 一方のカティアはというと、初めての魔動車の速さに怯えているリサラと違って、特に取り乱すことなく落ち着いた様子で真っ暗な景色が広がる窓の外を眺めていた。

 俺は後ろを振り返らずにハンドルを握ったまま、カティアの質問にも答える。


「このまま寝ないで魔動車を走らせてれば、それくらいには余裕でフェリトアに着いてるかもねー。まぁ、流石に徹夜で魔動車の運転なんてしたくないから、何処か適当な場所で休むつもりだけど」


「魔動車の運転ってやっぱり結構大変なんです?」


「最初は結構操作とか魔力の調整が大変だけど、慣れちゃえばそんな大変でもないよ。フェリトアに着いて色々落ち着いたら、カティアも魔動車の運転してみる?」


「いいんですか! やってみたいです!」


「そんな話は今しなくていいから早く止まってくださいよおおおおおおおおお!!」


 そんな騒がしいやり取りを繰り広げたりしながら港町フェリトアに続く街道を暫く走り続け、俺はその途中にあった森の近くで止まる事にした。


「今日はここら辺で野営にしようか。一旦魔動車から降りて、3人で手分けして魔物除けの結界を張っちゃおう」


 後ろに座る2人にもそう告げて、俺は魔動車から降りる。


「リサラー、大丈夫?」


「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思いました……」


 先に降りたカティアに続いて、よろよろと魔動車から降りてきたリサラが青ざめた表情で膝に手をつきながら呼吸を整えていた。


「大袈裟だなぁ。あの後ちゃんと魔動車の速度も落としたし、事故とかも特に何も起きなかったでしょ?」


「そ、そうでしたけど! でも、最初は本当に生きた心地がしなかったんですよ!」


 俺の言葉を聞いて、リサラが少しだけ大きな声を漏らした時だった。


「グルル、グルルルゥ──!」


 目の前に広がる木々の奥から、威嚇するように唸り声をあげながら、赤目で灰色の狼の魔物の群れが姿を現した。


「あれはハイウルフの群れですね。リサラの大きな声に寄って来たんですかね?」


「え、ええっ!? ……も、もしかしなくても、これって私のせいなんですか?」


 カティアの指摘にリサラは驚いた声を漏らし、すぐに口元を抑えて、声のボリュームをガクッと落として小さな声で話し始める。


「いや、リサラのせいではないと思うけど……。森の中を駆けて来た様子でもないし、この群れは最初から俺達の近くにいた感じじゃない?」


「じゃ、じゃあ、偶々ハイウルフの群れがいる場所に私達がやってきたって事ですか?」


「多分だけど、そうなるね」


 そんな問答を繰り広げている間に、ハイウルフの群れは俺達を包囲するように静かに動いていた。


「……って、それよりこのハイウルフの群れはどうするんですか。あっという間に囲まれちゃいましたよ」


「どうします、センパイ? 魔法でぱーっとやっちゃいます?」


「んー、そうだねぇ……」


 カティアとリサラの2人に問いかけられ、俺はどうするか考え込む。


 まず、逃げるという選択肢は無いだろう。

 周囲の殆どがハイウルフ達に囲まれてしまっているし、背後には魔動車があって完全に逃げ道がない状況である。

 そうなると、このハイウルフ達を全て討伐するしかないが、使用する魔法もちゃんと考えないといけない。

 迂闊に火魔法を使って森に燃え移ったら大惨事だし、下手な魔法で攻撃をして血の匂いや戦闘の音などを聞きつけたりした他の魔物を呼んでしまう可能性もある。


「──そうなると、この魔法にしようか!」


「グルルルルルァ──!」


 唱える魔法を決めて右手を前に突き出した瞬間、周囲を囲んでいたハイウルフが一斉に襲いかかって来る。

 だが、ハイウルフの鋭い爪牙が届くよりも早く、俺は即座に魔法を発動させる。


「ブリザード──ッ!」


 そう唱えた瞬間、絶対零度の吹雪がハイウルフ達を包み込んだ。

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